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労働市場がタイトなのにもかかわらず、賃金上昇ペースが緩やかであることに対して、日本銀行は「いつか上がる」という考え方を崩していない。中曽宏副総裁は7月26日に行われた金融経済懇談会のあいさつの中で、「生産性の向上によって1人当たりの稼ぐ力が増加すれば、その分、企業の収益力は強化されます。やや長い目で見れば、収益に余裕が生まれた企業は、むしろ生産性の向上に見合う形で賃金を引き上げてもよいと思うようになるはずです」と述べた。中曽副総裁が述べたように、生産性の向上から賃上げまでに一定の時間を要するのであれば、いつになったら賃上げが行われるのかという疑問が生じる。

「生産性」と「賃金」のサイクル

企業の生産性が向上してから賃金が上昇するまでに一定のタイムラグがあるのであれば、両者の伸び率は「循環図」として描けるだろう。具体的には、横軸に企業の生産性の代理変数として「企業収益(1人当たり)の伸び率」をとり、縦軸に賃金の代理変数として「企業の人件費(1人当たり)の伸び率」をとって、両者の関係を散布図上にプロットしてつなげていけば「生産性・賃金循環図」となる。

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たとえば、まず、第1のフェーズでは企業収益の伸び率が加速を始めても、人件費はすぐには改善しない。賃金が上昇するまでには一定のタイムラグがあると考えられ、第2段階で企業収益も人件費も伸び率がプラスとなるフェーズに入る。人件費の伸び率はプラス幅を拡大するものの、景気のピークが近くなると企業収益の伸び率は鈍化していくだろう(人件費の増加が企業収益を圧迫すると考えることもできる)。

その後、第3のフェーズに入ると、企業収益の伸び率はマイナスとなる一方、賃金はタイムラグをもって変化することに加えて賃金の下方硬直性によって、人件費はすぐには減らないまでも、プラスの伸び率が徐々に鈍化していく。企業収益のマイナス幅がさらに大きくなると、いよいよ人件費が削られる第4のフェーズに入る。その後、景気回復と人件費の削減効果によって企業収益は徐々に改善し、第1のフェーズに戻る。この循環図を「生産性・賃金循環図」と呼ぶ。


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