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沼津市の泊まれる公園「INN THE PARK」。もとは青少年向けの自然体験施設だった。欧州では「自然は壊さないことを前提に積極利用する」のが当たり前。日本も「世界3位の森林大国」の潜在能力を引き出せるはずだ(写真:パブリックアライアンス事務局提供)
欧米に比べ遅れている公的不動産活用をどうすればいいのか。経営と街づくりの視点から鋭く切り込む木下斉(一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事)、「共通価値経営」を標榜する野尻佳孝(テイクアンドギヴ・ニーズ会長)、リノベーションなどで優れた実績を誇る馬場正尊(オープン・エー代表/東京R不動産)の3人が、ホスト兼パネリストとして毎回ゲストを迎え、「新しい日本の公共不動産のあり方」をビジネス視点で考える「パブリック・アライアンス・トーク」。
第8回のテーマは森林。ゲストは林千晶・ロフトワーク代表。林氏は飛騨・古川に本拠を置く「飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)」の代表も務める。森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指すというのがヒダクマのミッションだ。日本は不動産としての日本の豊富な森林資源をどう活用すべきなのか。4人が熱い議論を繰り広げる(文中敬称略)。

森林先進国・フィンランドの「自然享受権」とは?

――日本は国土全体の約66%が森林で、そのうち約45%、1000万ヘクタールは国または地方公共団体の所有地です。そこで今回は森林や公園をテーマに、環境を生かしながら新たな公的不動産活用を行う事例を見ていきたいと思います。

最初に参考にするのは、森林大国・フィンランドの「エブリマンズ・ライト」=自然享受権に基づいた取り組みです。北欧では古くから、「土地の所有者に損害を与えない限り、すべての人はその土地に立ち入ったり、自然を享受する権利が認められている」という考え方が浸透しています。

実は、フィンランドではこれを法律で明確に定めました。享受権の中には、通行権、滞在権、自然環境利用権、さらには果実採取権も含まれ、土地の所有者に対価を支払わずに、例えば野生の果実やキノコ類の採取をすることだって可能です。それも、個人が自宅用に利用するだけでなく、ビジネスとして活用することも許されています。海外からの旅行者に対しても、同じ権利が認められているのも特長です。

左から木下、林、馬場、野尻の各氏(写真提供:パブリックアライアンス)

林千晶(以下、林):実は2015年、岐阜の飛騨で林業の会社を立ち上げる際に、まさにフィンランドの事例をベンチマークにしようと思い、視察に行ったんです。そこでエブリマンズ・ライトの実態も見てきたんですが、その根本思想は「土地の所有と利用を分ける」というものでした。森の中はみんなのもので、そこに泊まってもいいし、釣りをしてもいいし、キャンプしてもいい。自生している果実を採ってジャムを作っている大手企業もあるくらい。個人だけでなく、ビジネスをしてもいいというのがまたすごいなと。

馬場正尊(以下、馬場):森はみんなのもの、という哲学が社会全体で共有されているんでしょうね。


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