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トランプ米大統領によるエルサレムの首都認定に対し、パレスチナ側の抗議は一段と激化している(写真:ロイター/アフロ)

ドナルド・トランプ米大統領が12月6日、「エルサレム」「イスラエルの首都」と正式認定したことに、世界中が困惑している。イスラエルはもちろん歓迎する一方で、敵対するパレスチナ側は猛抗議。中東の地政学リスクが再びクローズアップされてきた――。

複雑な構図を解きほぐすため、まず簡単に歴史を振り返ってみたい。

1995年に米連邦議会は、イスラエルが1967年の第3次中東戦争で併合した東エルサレムを含むエルサレムについて、「不可分で永遠の首都」と主張するイスラエルの主張を認め、米大使館を移転する法律を可決させた。だが歴代の大統領は、6カ月おきに議会の法案を拒否する文書に署名し、先送りする。クリントン、ブッシュ(子)、オバマ政権の時代だ。

連邦議会がエルサレム移転法を可決したことは、議員が政治力を持つユダヤ人ロビーと、その同盟関係にあるキリスト教福音派(推定約5000万人)を満足させるためである。米国は連邦議会がリップサービスをしながら、大統領が実行を拒否する関係。つまり移転に本気ではなかった。

従来の外交政策を破ったトランプ氏

1993年のイスラエル・パレスチナ間で締結されたオスロ合意後、東エルサレムにパレスチナ国家の首都が置かれることも構想されていた。それゆえ現在、エルサレムをイスラエルの首都と認めて大使館を置いている国は、1つもない。米国、欧州、日本など国際連合加盟国は、イスラエル最大の商業都市「テルアビブ」と隣接都市ラマットガンに大使館を設置。ただ、米国やフランス、イタリア、ギリシャは、エルサレムに領事館を置いている。

米歴代大統領は、大使館のエルサレム移転が中東和平構想を破壊、アラブ・イスラム世界からの強烈な反発を招き、国際社会における米国の威信を毀損すると認識して、パンドラの箱を開けなかったのである。

そして2016年の米大統領選挙。トランプ候補(当時)は、ユダヤ系米国人とキリスト教福音派の票目当てに、「米国大使館のエルサレム移転」を公約に掲げたものの、大統領就任後の2017年6月には同様に、先送り文書に署名している。しかし、前述したように今月6日、トランプ大統領はエルサレムを首都と認め、米国大使館を移転する声明を発表。エルサレムの領事館に大使館の看板を掲げて大使を移動すれば、直ちに実行できるはずだが、その選択はしていない。広大な敷地を確保し、テロ対策を施した、入念な大使館を建設するという計画だ。実現するのは3?4年先になるので、そのころトランプ氏が大統領の座にあるかどうかも疑わしい。

レックス・ティーラソン米国務長官は、「トランプ大統領の声明は歴史的事実と現状の追認」として、「移転を急ぐことではない」と苦渋の表情を浮かべながら、衝撃を極力やわらげるコメントをしている。


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