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 インスタ全盛の時代、ただ突っ立ってもいられないということか。

 東京スカイツリーが腰を折り、壁際にへたりこんでいる。

 脇に説明の看板。「カメラで撮影すると、立体的にみえます!」

 天井から床に広がる、だまし絵の壁画だった。これを背にして写真に納まると、位置やポーズによって、スカイツリーによじのぼっているようにも、ぶらさがっているようにも写る。外国人のグループがのけぞり、はり付き、大笑いしながら撮影しあっている。

 だまし絵壁画は昨年6月、ツリーの足元、地下3階の押上駅連絡フロアに設けられた。誘導スタッフが控え、実物のスカイツリーにものぼってみませんか、と声をかける。

 「思った以上の人気です」と東武タワースカイツリー運営部の片野智佳子さん(25)。現場スタッフの統括役で、客の声を集めるのも仕事だ。

 スマホを差し出して、案内係に尋ねる人がいるという。「こういうのは、どこから撮れますか」。画面には「逆さツリー」と呼ばれる川面の写真が納まっている。コールセンターでも撮影スポットの質問は多い。「スカイツリーの面白い写真、インスタ映えする写真が求められているんです」

 渋谷から建設が始まった半蔵門線が押上まで延びたのは2003年のことだ。京成押上線、都営地下鉄浅草線、東武伊勢崎線とあわせて4路線が地下で集まるターミナル駅になった。

 3年後。駅の上に電波塔が建つことが決まる。地上波テレビ放送のデジタル化を控え、東京タワーに代わる塔が必要になっていた。

 08年7月14日に着工。その3日前、iPhoneが初めて日本で売り出され、徹夜の行列が出来た。フェイスブックで日本語が使えるようになったのも、この年だ。

 スマホとSNSの普及と競うように、東京スカイツリーは上へ上へと伸びていった。12年5月、「自立式電波塔として世界一」の高さ634メートルで開業。駅には〈スカイツリー前〉の副名がついた。そしてインスタグラムの時代。ツリーは格好の被写体になる。

 地元の墨田区も一昨年、公式インスタグラムを始めた。「若い人にアピールするには一番です」。企画経営室の清野良太さん(34)が言う。スカイツリーが墨田にあることが、あまり知られていないもどかしさを感じていた。

 行事や名所などを週2回のペースで撮影する。一番のテーマは、もちろんスカイツリー。花火や満月、虹や隅田川と組み合わせて、工夫した。

 昨年1月、「#ネタ切れ助けて」とハッシュタグをつけたら、リクエストが来た。「私の住む長野県は雪景色ばかりで暗くなりがちです(中略)晴れた墨田区の景色を見たい」。6日後、清野さんは冬晴れの青空にすっくと立つ、王道のスカイツリーを投稿した。

 見物を終えた人たちが、改札に向かう。たくさんの「インスタ映え」を乗せて、電車はきょうも走り出す。(湯瀬里佐)



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