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高さ10メートルを超える崖が目の前に現れた。岩肌の上部に1?2センチほどの白い筋がうっすらと横切る。「あの火山灰層の下がカラブリアン。上が『チバニアン』と命名される予定の地層です」。昨年12月、元高校教師、堀内正貫さん(76)が教えてくれた。

千葉県市原市田淵。山あいの静かな集落に昨年11月、全国から観光客が殺到した。国際学会の第1次審査を通過し、77万?12万6000年前の地質時代に命名される可能性が高まった「チバニアン」の地層を見るのが目的だ。

午前10時に近くの集会所「田淵会館」の前で堀内さんと待ち合わせて約500メートル先にある地層へと向かった。急な坂道を下っていると一眼レフを手にした長靴姿の人と何度もすれ違う。10分ほどで山道が途切れ、穏やかに流れる養老川と目的の黒い崖が姿を見せた。

岩肌にいくつもの穴が開き、色分けされた杭(くい)が刺さる。「地球のN極とS極が最後に逆転した77万年前の地層を調べた痕跡」と堀内さん。岩肌には御嶽山の噴火で積もった白い火山灰層がうっすらと横切るのが間近に見える。「ロマンを感じるわね」「そう? よく分からないけど」。岩肌をカメラに収めた60代の女性が笑い合った。

実は国立極地研究所などのチームが国際学会に申請するにあたり、チバニアン以外に「チバシアン」「チバアン」なども候補に挙がったそうだ。堀内さんが教えてくれた。残り3段階の審査を経て「チバニアン」は地球の歴史に名を残す。地層には記念の「ゴールデンスパイク(金の杭)」が打ち込まれる予定だ。

地元の課題は環境整備。市は地層を近くから見られる斜面の立ち入りを禁止した。「滑りやすく手すりがぐらついて安全が確保できない」(担当者)。貴重な地層を守る対策も欠かせない。

小湊鉄道・月崎駅 「チバニアン」は小湊鉄道の月崎駅から徒歩30分。土日祝日には田淵会館と駅を結ぶ無料のシャトルバスが運行中だ(1月28日まで)。市は昨年11月以降、地層を分かりやすく解説したリーフレットを作製し、会館前で無料配布している。無人駅の月崎駅では2014年、全国でも珍しい厚紙でできた「硬券」が復活。駅前の商店で販売している。改札をくぐった印にハサミを入れる鋏痕(きょうこん)が昔懐かしい。


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