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『ちょっとだけ』(瀧村有子作、鈴木永子絵)
『ちょっとだけ』(瀧村有子作、鈴木永子絵)

 絵本にはいろいろなだっこが描かれています。以前「絵が語ること(2)」でもご紹介しましたが、平成19年に福音館書店から刊行された『ちょっとだけ』(瀧村有子作、鈴木永子絵)では、赤ちゃんが生まれ、お姉ちゃんになった主人公のなっちゃんがちょっとだけ我慢したり、頑張ったりしながら自立していく姿が描かれています。その中で、なっちゃんは「ちょっとだけだっこして」とお母さんにせがみます。すると、お母さんは、「ちょっとだけ?」「いっぱい だっこしたいんですけど いいですか?」と応え、なっちゃんを優しくだっこします。

 ある絵本講座に参加した大学生のSさんは、この場面を見て泣き出しました。「なぜこんなに涙があふれるのか、自分でもわからない」と号泣する彼女の横で、私はただ彼女の背中をなでることしかできませんでした。しばらくして、彼女は次のように話し出しました。

 「私には2つ違いの障害をもつ弟がいます。弟は小さい頃から多動で、目が離せませんでした。弟がいなくなる度に母は必死で捜し回りました。いつも疲れ果てている母を見て、私だけはいい子でいなくちゃ、母を悲しませちゃいけないと思っていました。でも…でも…私がずっと言いたかったことは、ちょっとだけだっこしてだったのです」と。



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