ニュース本文


【評伝】「鉄腕アトムを救った男」アップリカ葛西創業者・葛西健蔵氏 債権者に追われた手塚治虫氏が最後に頼った
【評伝】「鉄腕アトムを救った男」アップリカ葛西創業者・葛西健蔵氏 債権者に追われた手塚治虫氏が最後に頼った
その他の写真を見る (1/2枚)

 育児・ベビー用品を手掛けるアップリカ葛西(現アップリカ・チルドレンズプロダクツ)の創業者、葛西健蔵(かっさい・けんぞう)氏が10月21日、91歳で死去した。「鉄腕アトムを救った男」。これは漫画の神様と呼ばれた手塚治虫氏と葛西氏の交流を描いた拙著のタイトルだ。葛西氏を一言で表現すると何よりもこのフレーズが符合する。昭和48(1973)年、同社の社長だった葛西氏のもとを、親交のあった手塚氏が訪ねた。手塚氏が経営するアニメ制作会社「虫プロダクション」の倒産。債権者に追われた手塚氏が最後に頼ったのが葛西氏であった。(巽尚之)

 葛西氏は手塚作品の版権を全て自分の名義に書き換え、債権者らから手塚氏を守り抜いた。そうしなければ、手塚作品の版権が勝手に持ち去られて処分され、後に収拾がつかなくなる恐れがあったからだ。

 当時、葛西氏を恩師と仰ぐ小さな会社の経営者2人が、師の東奔西走ぶりを間近で見て「俺たちも一肌脱ごう」と5千万円を集め、手塚氏に提供してほしいと願い出る。その意向は葛西氏を通じて手塚氏に伝えられるが、手塚氏はさすがにそんな大金は受け取れないと提供を辞退する。ただ、その申し出に感激し、創作活動を再開。後の作品につながった。戦後間もない大阪を舞台にした手塚氏の異色作「どついたれ」も、こうした葛西氏らとの交流の中から生まれた。



記事一覧 に戻る 最新ニュース読み比べ に戻る