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東北地方の蔵王連峰や吾妻山で見られる樹氷は、いつごろ形成されたのか―。30年以上にわたって樹氷の分布や、樹氷ができるメカニズムなどについて研究している国内唯一の樹氷研究者、柳沢文孝山形大学名誉教授(環境科学)は、1000年前という研究成果をまとめた。日本海の海水温や山岳地帯の気温の変化、樹氷ができる針葉樹オオシラビソ(アオモリトドマツ)の分布時期を文献から調査し、1000年前に樹氷ができる環境が整ったと推定できるとした。
樹氷は、大正3(1914)年に山形師範学校(山形大学の前身)の教諭らが蔵王連峰で初めて発見してから、大正9(1920)年以降、山岳会や鉄道省が日本各地を探査し、北海道(ニセコ・羊蹄山など)、東北地方(八甲田・八幡平・蔵王・西吾妻)、長野県(志賀高原・菅平)でも見つかっている。
なぜ、樹氷ができるのかについては、シベリアから吹く寒冷で乾燥した冬の季節風が対馬暖流から水分を供給して湿潤化し、前の山に衝突して急上昇。断熱膨張した後、雪雲をつくる。この雪雲の最上部にできた過冷却水滴帯が強風で吹き飛ばされ、後ろの山の針葉樹に衝突、氷の塊(エビノシッポ)となり樹氷(アイスモンスター)になっていくことがわかっている。
だが東北地方の樹氷はいつから形成されたのかは不明だった。柳沢名誉教授は、?氷河期後の対馬暖流の時期?温暖だった縄文期が終わり寒冷化し亜高山帯の気象条件ができ始めた時期?亜高山帯に常緑のオオシラビソなどの針葉樹が分布・拡大し始めた時期?から樹氷形成期は1000年前と特定した。「1000年前ごろになりオオシラビソが東北地方に広がり、蔵王や吾妻山、青森県の八甲田で見られるようになった」という。
その一方で、地球温暖化により樹氷の立ち枯れが目立っている状況に柳沢名誉教授は「平安時代から存在する蔵王の樹氷だが、温暖化で気温が上昇し、オオシラビソが立ち枯れし蔵王の樹氷は危機的状況にある」と指摘。その上で「樹氷は消滅の危機にある。数千年単位で起こった気温の変化がいまは10年単位で起こっている。温暖化を止めないと樹氷を維持していくことは難しい」と警鐘を鳴らす。