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◆…関西医大名誉教授 中井吉英…◆

 社会が複雑化し、ストレスであふれた現代。先の見えないコロナ禍も重なり、今後は心身の調子を崩す人がじわじわと増えることが予想される。ストレスが背景にある病気は、検査で異常が見つからないことも多く、診断と治療が難しい。日本心療内科学会の前理事長で、関西医大名誉教授の中井吉英さんに、体と心を分けずに診る心身医学の神髄を尋ねた。(編集委員 山口博弥)

ベッドサイドで手を握る。体をさする。大人もそれで安心します

 心療内科医になって50年がたちました。でも、いまだに心療内科は多くの人に誤解されています。

 精神科は、統合失調症やうつ病、不安症などの精神疾患が対象。神経内科は、パーキンソン病や脳梗塞こうそくなど脳神経系の病気を診ます。

 一方、心療内科は、「体と心を分けずに診療する内科」です。主に心理社会的なストレスの影響で、体に不調が表れたり、もともとあった病気の症状が悪化したりした身体疾患(心身症)を診る「心身医学」を、内科の領域で実践します。心療内科医は名前の通り、内科医なのです。

中井吉英さんの診察室の机の上には、カレンダーの紙を丸めた筒が無造作に置いてある。「耳が遠い患者さんに話す時に使うんです。夫婦の場合は2本をこうやってね」。左手前は先輩医師から結婚祝いにもらった博多人形(京都市の西京都病院で)=永井哲朗撮影
中井吉英さんの診察室の机の上には、カレンダーの紙を丸めた筒が無造作に置いてある。「耳が遠い患者さんに話す時に使うんです。夫婦の場合は2本をこうやってね」。左手前は先輩医師から結婚祝いにもらった博多人形(京都市の西京都病院で)=永井哲朗撮影

 1995年の阪神大震災の時、避難所の体育館に70代の男性がいました。被災後に血圧が高くなり、降圧剤を飲んでも上の血圧が180から全然下がらない。話を聴くと、地震で家が倒壊し、親友が目の前で亡くなった。その場面が何度もフラッシュバックとして現れ、1か月間、ほとんど眠れなかったといいます。私は彼の脈を診ながら手を握り、じっくりと話に耳を傾けました。その後に睡眠薬を処方すると、男性はぐっすり眠れるようになり、血圧も120台にまで下がりました。

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メモ  心身医学は1800年代にドイツで生まれ、日本で独自の発展を遂げた。心身医学を内科で実践する「心療内科」は1996年に標榜(ひょうぼう)できるようになったが、「9割以上は精神科医が標榜しているのが現状」(中井さん)という。厚生労働省の2018年の統計では、精神科専門医は9675人いるのに対し、心療内科専門医は319人と少ない。

中井吉英(なかい・よしひで)  関西医大名誉教授。京都市生まれ、78歳。1969年関西医大卒。83年九州大医学部心療内科講師。93年関西医大第1内科学教授。2000年同大心療内科学初代教授。現在、弘正会西京都病院名誉院長・心療内科部長。日本心療内科学会前理事長、日本心身医学会元理事長。著書に「いのちの医療」(東方出版)など。

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