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アナザーノート 吉岡桂子編集委員

 米中覇権争いの主戦場の一つであるIT分野。先端技術を駆使して米国企業が事実上の国際標準をつくってきた世界に、巨大市場を背景に力をつけた中国企業がゆさぶりをかけています。国家の安全保障にもかかわる、この潮流をどうみているか。世界最古の国際機関といわれる国際電気通信連合(ITU)のトップ「事務総局長」を務めた内海善雄さん(78、写真右)に取材しました。

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 ITU。耳慣れない略語かもしれません。誕生は150年あまり前。電報の国際ルールをつくるため、フランスの皇帝ナポレオン3世の呼びかけで、欧州20カ国がパリに集まった会議の事務局が前身です。今は国連機関の一つとしてジュネーブに本部があります。電波の国際的な調整、電気通信の世界的な標準づくりや情報通信分野の国際協調を促す役割を持っています。

 内海さんが事務総局長を務めたのは1999年から2006年の8年間。今も昔も数少ない日本人の国連機関トップでした。郵政省(現総務省)では率直な語り口の「やり手」で知られ、「通産省(現経済産業省)との省益戦争では百戦百勝のたいへんな猛者」(当時を知るメディア関係者)として、政策提言を重視するなどITUの新しいあり方を模索しました。

 米国・国防総省の研究機関が開発したインターネットは、マイクロソフトグーグル、アップルなど先行する米企業が、独自の技術を用いて市場で力を発揮しながら事実上の世界標準をつくっていきました。電報や電話、テレビの時代と異なり、国家中心の枠組みであるITUを置き去りのまま発展してしまったのです。内海さんによれば、規制を嫌うネット企業は必ずしも「ITUに友好的ではなかった」。

「10億人の民をITで養う」

 北京特派員だった私が内海さんを初めて取材したのは06年暮れのこと。ITUが香港で開いた情報通信産業の大展示会「テレコムワールド」の会場でした。ジュネーブ以外では初めての開催でした。

 中国政府から熱心な誘致がありました。中国政府の代表は「中国は今後、10億の民をITで養うのだ。いずれ世界最先端のIT国家になるつもりだ。香港のイベントは国家の威信をかけて成功させる」と話していたそうです。「中国人らしい大言壮語だなぁと思っていたら、(今は)現実になってきましたね」と内海さん。

 展示会は大盛況。その数年前…

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