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 今から100年前、米オクラホマ州タルサにあった黒人居住区が白人の暴徒によって破壊され、姿を消しました。「タルサ人種虐殺」と呼ばれる事件は長い間、米国内でも知られてこなかったといいます。そうしたなか、今年6月にあった追悼集会にバイデン氏が現職大統領として初めて参列し、「今日の米国でも、最も致命的な脅威は白人至上主義によるテロだ」と述べました。タルサで何が起き、なぜ広く語られてこなかったのでしょうか。米国の人種暴力の歴史に詳しい、立命館大学文学部の坂下史子教授(アメリカ研究)に聞きました。

写真・図版
米オクラホマ州タルサで今年5月、タルサ人種虐殺を追悼する壁画の前で写真を撮る親子=ロイター

 ――虐殺が起きたきっかけはなんだったのですか。

 1921年5月30日、タルサに住む靴磨きの黒人青年が、エレベーターの中で白人の若い女性に性的暴行をしたという疑いをかけられたのが始まりです。当時の米国では南部の州を中心に人種隔離政策が取られていましたが、オクラホマ州でも同様でした。この青年は普段から商業ビル内の黒人用のトイレに行くためにエレベーターを使っていたので、おそらくこの日もそのために乗っていたところ、エレベーターのオペレーターとして同乗していた女性が悲鳴をあげました。それを聞いた白人の店員が「黒人に暴行されたに違いない」と警察に通報したのです。

 当時は南部を中心に、黒人男性を標的としたリンチと呼ばれる暴力殺害事件が多発していました。奴隷制の廃止後、黒人の政治的・経済的・社会的地位の向上を脅威とみた白人男性は、暴力によって既存の白人至上主義的な社会構造を固守しようとしましたが、そこで吹聴されたのが、黒人男性を白人女性への性的脅威とみなす言説だったのです。

 ――実際に被害があったのでしょうか?

 真偽は不明ですが、冤罪(えんざい)だったのでは、と言われています。その女性は被害届を出していません。事件については2001年に調査報告書が公表されているのですが、2人は実は恋人同士でけんかをしていただけとか、青年がつまずいて彼女の腕に触れたので驚いただけとか、様々な説が出ています。

センセーショナルな報道、白人が集結

 ――そこからどうやって虐殺に発展したのですか?

 事件の翌日、この青年は逮捕されるのですが、白人が経営する地元紙が夕刊で「エレベーターで女性を暴行した黒人を逮捕」(“Nab Negro for Attacking Girl in an Elevator”)とセンセーショナルに報じたことから、日没までに数百人の白人住民が留置所のある裁判所前に集まってきました。夜になるとその数は約2千人にふくれあがります。

 青年の身を案じた黒人住民た…

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