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 中国の全国人民代表大会常務委員会が「香港国家安全維持法」を成立させた。香港での国家分裂活動などを禁止する治安法制だ。香港の頭越しの決定で「1国2制度」は崩壊の危機に直面している。

 香港では反対論が根強く、日本や欧米も再考を求めていた。こうした声に耳を傾けず、制定を強行した中国の姿勢は極めて遺憾だ。

 香港の憲法に当たる香港基本法は国家安全法制の制定を義務づけている。しかし、2003年に大規模デモで国家安全条例案が撤回され、提出が見送られてきた。

 昨年、容疑者の中国引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案への反対デモが続き、香港がマヒ状態に陥った。これに危機感を持った中国が自ら制定に動いた。

 国家分裂、中国政府転覆、テロ活動、外国勢力との結託の4犯罪が対象となるが、その定義は不明確だ。最高刑は終身刑で、中国で裁かれる危険性もある。

 香港基本法の一部として施行されるため、基本法の順守を立候補の要件とする9月の立法会(議会)選挙に反対派が出馬できない可能性も指摘されている。

 香港には中国政府の出先機関が設置され、顧問も派遣される。司法、立法、行政の3権にわたって統制が強化されることになる。

 コロナ禍で多人数の集会が禁止され、大規模な抗議活動は起きていない。だが、香港の世論調査では過半数が反対を表明している。

 香港の林鄭月娥(りんていげつが)行政長官は「市民の権利が失われることはない」と説明するが、法律の解釈権を持つのは中国だ。

 中国は1984年の中英共同宣言で香港の「高度な自治」を認めた。社会制度は97年の返還から「50年間不変」とする「1国2制度」は国際公約だ。英国などは国際条約である宣言違反と批判している。コロナ禍で悪化した米国との対立もさらに深まるだろう。

 香港は国際都市だ。日本や欧米諸国は「1国2制度」を前提に香港の繁栄を支えてきた。中国は国際社会の批判を「内政干渉」と一蹴するが、政府批判だけで投獄される中国国内の人権状況が不信を高めていることを自覚すべきだ。

 日本も香港の人権状況に関心を持ち続け、中国に率直に懸念を伝えていく必要がある。