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東京都庁第1本庁舎(新宿区)の手前を通過する「ブラックホーク」2機。高度は都庁展望室(高さ202メートル)より低い=都内で2020年7月9日午後1時10分ごろ、大場弘行撮影(写真は動画から) 拡大
東京都庁第1本庁舎(新宿区)の手前を通過する「ブラックホーク」2機。高度は都庁展望室(高さ202メートル)より低い=都内で2020年7月9日午後1時10分ごろ、大場弘行撮影(写真は動画から)

 在日米軍のヘリコプターが日本の首都・東京の中心地で異常な低空飛行を繰り返している。大勢の人が行き交うターミナル駅の真上を通過し、高層ビルの間をすり抜ける。日本のヘリであれば違法となる高度で飛びながら、説明責任を何も果たしていない。私は米国民に問いたい。ワシントンやニューヨークで、日本の自衛隊のヘリに同じことをされたら黙っていられるのか、と。【大場弘行】

 その光景はまるで映画のワンシーンのようだった。2020年7月9日の昼過ぎ、私は都心にある米軍のヘリポートに離着陸するヘリの様子を撮影しようと近くでビデオカメラを構えていた。すると突然、米陸軍ヘリ「ブラックホーク」2機が低空で飛来し、ヘリポートに立ち寄ることなく都心を1周した。そして高層ビル群のあるエリアに向かい、ビルの間をすり抜けた。2機の高度は200メートルのビルの高さとほぼ同じだった。その真下には1日の乗降客数が世界最多の約350万人とされる新宿駅がある。

日本の航空法令が定める高度規制(人口密集地の場合) 拡大
日本の航空法令が定める高度規制(人口密集地の場合)

 日本の航空法令は、人口密集地で守るべき最低安全高度を、航空機から半径600メートル内にある建物の上端から300メートルと定めている。つまり、高さ200メートル台のビルが林立する新宿駅周辺は最低でも500メートルの高度で飛ぶ必要がある。この基準は世界各国が採用している国際民間航空機関(ICAO)のルールと同じで、不時着時に建物や地上にいる人々に被害を出さないために必要な高さとされている。

 米軍ヘリはこのルールの適用除外となっている。米軍の日本での円滑な活動を確保する日米地位協定によって、日本の法律が原則適用されないからだ。だが、協定は米軍に日本の法律を尊重する義務も課している。軍事上の特別な理由がない限り、日本の高度基準に従うのは当然のことだ。

東京・新宿駅から約500メートル離れた場所にある「NTTドコモ代々木ビル」(高さ約270メートル)の手前を低空で通過する「ブラックホーク」=新宿区の都庁第1本庁舎北展望室で2020年8月18日午前11時5分ごろ、加藤隆寛撮影(写真は動画から) 拡大
東京・新宿駅から約500メートル離れた場所にある「NTTドコモ代々木ビル」(高さ約270メートル)の手前を低空で通過する「ブラックホーク」=新宿区の都庁第1本庁舎北展望室で2020年8月18日午前11時5分ごろ、加藤隆寛撮影(写真は動画から)

 ブラックホークは新宿駅上空で低空飛行を繰り返し、こんなコースを飛ぶ。<新宿駅→巨大なゴジラ像がある歓楽街の新宿・歌舞伎町→美しいハス池のある上野公園→日本の古い町並みが残る浅草→634メートルの高さを誇る東京スカイツリー……>。いずれも有名な観光スポットだ。このコースを低空のまま往復する。そして都心から数十キロ離れた基地に帰っていく。

東京都渋谷区のJR原宿駅付近から山手線内に進入した米海軍ヘリ「シーホーク」=都内で2020年12月14日午後1時半ごろ、大場弘行撮影(写真は動画から) 拡大
東京都渋谷区のJR原宿駅付近から山手線内に進入した米海軍ヘリ「シーホーク」=都内で2020年12月14日午後1時半ごろ、大場弘行撮影(写真は動画から)

 都心には米海軍ヘリ「シーホーク」も飛来する。世界中の若者が訪れる渋谷駅周辺のショッピングエリアの上空を200メートルより低い高度で飛び回り、東京湾に近いオフィス街の高層ビル群をすり抜ける。都心のヘリポートでは、周囲に住宅や大学、美術館があるにもかかわらず、着陸してすぐに飛び立つ「タッチ・アンド・ゴー訓練」を繰り返す。2機編隊で東京スカイツリーを中心に何度も旋回することもあった。その下には小中学校もある。

東京都墨田区の東京スカイツリーの展望台(高さ約350メートル)の前を通過した米海軍ヘリ「シーホーク」2機=都内で2020年8月27日午後4時20分ごろ、大場弘行撮影(写真は動画から) 拡大
東京都墨田区の東京スカイツリーの展望台(高さ約350メートル)の前を通過した米海軍ヘリ「シーホーク」2機=都内で2020年8月27日午後4時20分ごろ、大場弘行撮影(写真は動画から)

 都心には日本政府が認める米軍の訓練空域はない。なぜこんな飛行をするのか。在日米軍は目的を明かさず、「日本政府との合意を順守している」と答えた。しかし、私たちが証拠映像の配信を始めると、日本政府は報道された飛行が事実かどうか米軍に確認を求めた。

 私たちの取材で、米軍ヘリの都心での低空飛行に関し住民からの苦情が相次いでいることや、日本の防衛省がその内容を米軍に伝えていたことも判明した。その数は確認できただけで178件に上る。

ブラックホークの高度 拡大
ブラックホークの高度

 最終的に、米軍は都心での低空飛行について「調査したが米軍の規則に違反する飛行は確認されなかった」と日本政府に回答した。米軍の規則とはICAOのルールや日本の航空法と整合的なものだという。本当に整合的なら、人口密集地を高度200メートルで飛んだら違反となる。米軍の規則とはどういうものなのか。どんな調査をしたのか。私たちは在日米軍に問い続けているが、回答はない。

 米国民には私たちが無料配信している証拠映像を見てほしい。私と米軍の説明のどちらがおかしいか分かるはずだ。日本の識者の間では、米国人は第二次世界大戦で勝って占領した日本を「保護領」と思っているとの見方がある。私はそうは思いたくない。ただ、在日米軍は基地のある沖縄県など地方でも低空飛行や夜間飛行を繰り返し、やめてほしいという住民の訴えを聞き入れない。新型コロナウイルス対策では日本との約束を破った。米軍は、日本の水際対策と「整合的な措置を取る」と言いながら、日本入国前に必要な検査をしていなかった。このため米軍基地経由で日本にオミクロン株の感染が広がったとされている。

東京・渋谷のスクランブル交差点を行き交う多くの人たち=東京都渋谷区で2021年7月28日午後5時6分、後藤由耶撮影 拡大
東京・渋谷のスクランブル交差点を行き交う多くの人たち=東京都渋谷区で2021年7月28日午後5時6分、後藤由耶撮影

 この問題の根幹には日米地位協定の存在がある。協定によって米軍は日本の出入国管理法が適用されず、入国時の検疫も免除されているからだ。協定は米軍が占領軍だった終戦直後の特権を温存した別の協定を引き継いだもので、1960年の締結から一度も改定されていない。今年1月の毎日新聞の世論調査では、協定を「見直す必要がある」と答えた人が74%に上った。日本人の在日米軍への不信感はそう簡単には消えないだろう。

 日米同盟の重要性は近年の中国の台頭やロシアのウクライナ侵攻によって高まっている。日本の安全保障は米軍の力なしには成立しない。ただ、私たちは同盟のメリットが米側にもあることを知っている。良好な日米関係は米国の国益にもなるはずだ。米国民には、自分たちの軍隊の不誠実な振る舞いを知ってほしい。そして、少なくとも平時には日本の法律に従うように言うべきだ。事故が起きてからでは遅い。私は米国民の良心を信じている。



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