昨夏の東京オリンピックで全競技に先駆けて行われ、注目を集めたソフトボール。大会理念として「復興五輪」が掲げられ、福島の県営あづま球場(福島市)は開幕戦の会場となった。新型コロナウイルスの影響で五輪は無観客開催となったが、被災地にはどんなレガシー(遺産)が残されたのか。
「無観客だったので目に見える成果は難しい」。ソフトボール関係者は、福島での五輪開催効果について、そう説明した。五輪当時は球場周辺で東日本大震災や東京電力福島第1原発事故からの復興状況などを発信するイベントを予定していたが、すべて中止されたという。
復興庁が昨年11月に岩手、宮城、福島の被災3県と東京都の計4000人を対象に実施したアンケートでは、五輪開催が復興に寄与したとする意見は3割に満たなかった。
それでも福島県ソフトボール協会の品田尚孝会長(59)は「野球、ソフトボールが金メダルを獲得したという歴史の一ページが、この球場で始まった。そのことを未来を担う子供たちに伝え続けることができる、メンタル面のレガシーが大きい」と強調した。
県営あづま球場は五輪開催に向けて、2019年に人工芝が整備された。福島県庁の担当者は「今回のように国際試合やプロの試合を呼ぶことができるようになった」とハード面での効果も挙げた。3月に開幕したソフトボールのJDリーグも開催するなど、ハイレベルなプレーを間近で見られる機会もできたという。
6日にあった日米対抗戦の試合前には、ソフトボール日本代表の選手が福島市内の中学生とキャッチボールし、交流を深めた。日本代表選手は「手首を使って」などと技術面の指導もした。参加した中学2年の女子生徒は「代表選手に教えてもらって緊張した。(無観客開催だった)去年はテレビでしか見られなかったので、今回は試合を見られるのが楽しみ」と話した。
東京五輪を観戦予定だったという中学生も訪れ「心臓が飛び出るくらいうれしかった」と興奮気味だった。
品田会長は「今後も大きな大会を呼んで有名選手に来てもらうことで(五輪効果を)風化させないことが大切」と話す。レガシーを生かすための模索は続く。【尾形有菜】