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【ロンドン=中島裕介】英政府は8日、家計支援を中心とする物価急騰対策を発表した。エネルギー価格の高騰に対応するため複数の対策を組み合わせて、10月以降に標準世帯が支払う電気・ガス代が現状より値上がりしないよう抑え込む。英政府は8日段階で対策にかかる総費用を明示しなかったが、英メディアは総額で1500億ポンド(約25兆円)規模に達する可能性があるとしている。
トラス首相は8日の英議会下院での演説で対策の概要を説明し、「政府は光熱費に関する保証を人々に提供する。これはインフレ抑制と経済成長への対策だ」と語った。

対策ではまず英当局が供給事業者の調達コストや利潤などを考慮して、電気・ガスの販売価格に設定している「プライスキャップ」という上限を2年間、標準世帯のモデルケースで年換算2500ポンド(約41万円)に固定する。さらに光熱費の一部を占める気候変動対策向けの課徴金も一時的に停止する。
ジョンソン前政権は5月末に英国の全世帯の10月からの光熱費を、400ポンド差し引く対策などを表明していた。この対策も維持する。この3つを組み合わせて、今後も標準家庭の光熱費が現状の1971ポンドからほぼ変わらないようにする。
企業向けでも6カ月間、光熱費負担が家計と同じ水準になるように調整する。飲食や宿泊などサービス業はその後も延長される可能性がある。
さらに財務省は8日、イングランド銀行(中央銀行)と共同でエネルギー企業を支援する枠組みを新設すると発表した。エネルギー価格が高騰するなかで企業の流動性を保ち、倒産を防ぐ狙い。枠組みの詳細は今後発表される。
英当局は8月末に、標準家庭の光熱費が9月末と比べて8割増の3549ポンドに上がると発表した。年明けには5300ポンドを超え、7月に10.1%だったインフレ率が22%に達するとの一部機関の試算も出た。このためトラス政権は発足2日で追加対策を講じた。
英政府は8日の段階で対策にかかる総費用は示さなかった。英紙フィナンシャル・タイムズは1500億ポンドの財政支出が必要になると報じた。短期的には国債増発で対策に要する資金を確保する。
野党・労働党などが求める石油・ガス会社への追加課税は見送った。政府は5月末に最長25年末まで石油・ガス会社の利益に25%を追加課税すると発表している。政府はさらなる課税は企業の雇用や投資に影響が出ると判断した。
天然ガス価格を主体とするエネルギー価格の高騰を受け、欧州各国がインフレ対策を急いでいる。ドイツ政府は4日に650億ユーロ(約9兆円)規模の第3弾となる経済対策を発表した。光熱費など家庭への支援を拡充し、財源としてエネルギー会社への課税を強化した。
7日のロンドン外国為替市場では英通貨ポンドが下げ、一時1ポンド=1.140ドル台と、対ドルで1985年以来37年ぶりの安値水準をつけた。大規模な対策による財政悪化が意識された。