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新型ジェイド開発メンバーの中からは「背の低いミニバンで3列シート7人乗りを求めるのはマニアックな意見」と聞こえてくるが、いっそのこと3列シート7人乗り仕様も併せて設定したほうが、ユーザーにとってわかりやすい。4代目までのオデッセイやストリームを求めたようなユーザーが獲得できるかもしれず、違った新鮮味も出るかもしれないのに、ホンダはその策を採らなかった。

「技術的にジェイドを7人乗りにすることは可能だったが7人乗りを求めるユーザーには、居住空間に余裕のある『ステップワゴン』や『フリード』があるので、3列シートタイプは2列目にゆとりのある従来仕様のままとした」と前出の赤坂氏は明かす。

自動車に限らないが新しい製品・商品やサービスを展開していくうえで難題となるのが、それまでにない習慣を根付かせることだ。それもユーザーにとってわかりやすく、使いやすい形で。コンピュータでいえばユーザーインターフェース(UI)だ。

「奇想天外な発想をする」のはホンダらしいが

そもそも初代オデッセイの投入によって、それまでの日本にはほとんど習慣が根付いていなかった最大7人乗りで背の低いミニバンの一時代を築いたのがホンダだ。つまり、オデッセイやストリームで新しいユーザーインターフェースを確立したともいえるのだ。それを事実上捨てたのが2015年。ジェイドという新しいブランドで、3列シート6人乗りという新しいユーザーインターフェースを世に問うた。しかし、大転換は起こらなかった。

前例を踏襲しない。それまでにない奇想天外な発想をする。これがホンダらしさではあるが、裏返してみるとネガティブな方向に働くときはある。かつてホンダは前・後席とも3人掛けで最大6人乗りの「エディックス」を2004?2009年まで販売したが初代限りで続かなかった。それまでに浸透していない乗車レイアウトを仕掛けるのはかなり勇気のいることで、その挑戦精神には敬意を払うが、ユーザーの需要をがっちり捕まえないと浸透しない。

新型ジェイドの2列シート5人乗りの設定にあたって、ホンダ開発陣は「独身者や子離れ層をターゲットユーザーに定めた」という。ただ、もともとジェイドは3列シートのミニバンとして生まれたのであって、最初は全然違うターゲットユーザーだったはずだ。

純粋なステーションワゴンではないミニバンルックでも、ホンダにはジェイドと同クラスのステーションワゴンが用意されていないことから、ホンダファンを軸に新型ジェイドの5人乗り仕様は、そこそこ売れるだろう。ただし、同じシートレイアウトで最大5人が乗れる「シビック」ハッチバック(全長4520×全幅1800×全高1435mm)とは車格が近く、荷室容量の差はゴルフバック1個分程度。それなら、ホンダ車同士を比較検討したうえでメカニズムやデザインの新しいシビックのほうが魅力に映るケースもありうる。

背の低い7人乗りミニバンという自分たちがつくったマーケットを、みずから放棄してしまったことを残念に思っているホンダファンは間違いなくいる。ジェイドの場合、このシャープなデザインに3列シートを収められるパッケージングは、ほかのメーカーにはなかなかできないだけにだ。

「帯に短し、たすきに長し」。マイチェン前のジェイドはまさにそんなクルマだった。5人乗り仕様の追加で、たすきとしての長さはちょうどよくなった新型ジェイドだが、帯を求めるとなると短いまま。そんな印象を抱いてしまった。

武政 秀明
たけまさ ひであき / Hideaki Takemasa

1998年関西大学総合情報学部卒。国産大手自動車系ディーラーのセールスマン、新聞記者を経て、2005年東洋経済新報社に入社。2010年4月から東洋経済オンライン編集部。東洋経済オンライン副編集長を経て、2018年12月から東洋経済オンライン編集長。2020年5月、過去最高となる月間3億0457万PVを記録。2020年10月から2023年3月まで東洋経済オンライン編集部長。趣味はランニング。フルマラソンのベストタイムは2時間49分11秒(2012年勝田全国マラソン)。

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