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しかし、人づてでそれを知った相手はすぐにAさんに電話して、「何書いているんだボケ。お前なんてこの業界から干してやるの簡単なんだからな。忘れるんじゃねえぞ!」と、恫喝してきたのだった。結局、その後何年経っても彼が方々に手を回して、Aさんが仕事をできないように仕向けるようなことはなかった。しかし、Aさんにとってこの体験はいまだにトラウマで、「干してやる」という言葉を耳にするたびに、彼の顔と罵声を思い出すという。

また、「干してやる」と言われたわけではないが、それに近いことを言われたのが女性ライターのBさんである。彼女は男性向け週刊誌の編集部で契約記者として働いていた。通常、週刊誌の契約記者は「班」という単位で動き、副編集長やデスクの指令下で複数の記者が誌面を作っていく。仕事は班の中で完結させるのが通例だが、ほかの班に人手が足りない、ほかの班が追っているテーマに自分が精通している場合などはその班を手伝うこともある。ところが、Bさんの状況はそれとは違った。

「私は自分の仕事をやっていたのですが、突然ほかの班の社員からテープ起こし(取材を通じて得た録音データを文章化する作業)をやれと言われました。でも、そのときは忙しかったし、正直ほかの班のテープ起こしなんてやりたくないので断ったら、『それなら辞めろ』と言われてしまいました」

もちろん、Bさんを解雇する権限などその社員は持たないのだが、彼は契約解除をちらつかせることで、さらに脅してきた。彼は同僚を呼んだうえで、Bさんを会議室に連れ込んで、「なぜできないのだ。できないなら辞めろ」と彼女に詰め寄ってきたのである。

この2つの例のほかにも、「もうキミはウチの編集部だけでなく、ウチの会社全体も出禁だし、オレの知り合いの他社の編集部にもキミのことを使わないように言っておくから。言っとくけどオレは知り合い多いからね」と過去に脅されたというフリーランスもいた。

「干すぞ」と言われた人たちのその後

AさんのケースもBさんのケースも明らかに発注主による下請けへの「パワハラ行為」であり、人を脅すことで自分の意のままにしようとする悪質な姿勢は共通している。

なぜ、彼らはそんな発言をするのか。1つは「自分の力を見せつけたい」ということだろう。本当に干すことができるのかはさておき、若いフリーランスがそんなことを言われたら、「これはヤバい……。別の業界に転職しなくてはならないかもしれない……」、「絶対に逆らってはいけない」などと萎縮してしまう可能性は十分にある。あるいは、自分よりも立場の弱い人間をいじめることで日頃のストレスを晴らしたいだけかもしれない。


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