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会席利用者用のらい亭2階ロビーでは最初期のステンドグラスなど貴重な文化財が見られる(写真:らい亭)

さて、岩村さんがらい亭の運営に携わるようになったのは2014年の春のことだ。店を手伝っていた親族が高齢で辞めてしまい、社長から店を手伝ってほしいと請われたのだ。

岩村さんは、それまで家業には一切かかわらず、大学卒業後通運会社勤務を経て、イベントや展示会、映像などでのナレーションの仕事をしていた。また、ナレーションの仕事を続けながら2010年?2013年の間は、社会人学生として東京家政学院大学に通った。これは家業を意識してのことではなく、「高校卒業後、親の言いつけで大学の文系学部に行きましたが、本当は農業や食に興味があったので、いつか学び直したいと思っていた」(岩村さん)のが理由だという。

大学では、山林の所有者の高齢化などから全国的に放置竹林が増え問題になる中、竹を食資源や色素として活用することで、竹林の保全につなげるという研究を進めていた。そのまま大学院に進学するつもりでいた矢先に家業を手伝うよう声がかかった。このとき、「らい亭には竹林のみならず豊かな生態系がある。竹をはじめ敷地内の植物を使った新メニューの開発ができれば楽しいだろうなと思いました。それに大学院に行く機会は別にある」(岩村さん)と考え、家業を手伝うことに決めた。

鎌倉市内の飲食店は増加傾向

ところが実際に来てみると、想像していた以上に店は大変な状況になっていた。らい亭の年間来客者数はここ10年くらい、ずっと2万人くらいで推移していたが、莫大な固定資産税や人件費の支払いを考えれば、十分な数字ではない。また、敷地内にある甘味処の露庵は、年間200日以上店を開けていても、売り上げがゼロの日が半分以上という年もあり、大船駅の駅ビル内にある支店の売り上げも伸び悩んでいた。

岩村もと子さん。現在、東京家政学院大学で特別講師も務める(写真:岩村さん提供)

鎌倉市を訪れる観光客数は増加傾向にあり、特に2013年はドラマ「最後から二番目の恋」の影響もあって、およそ2300万人が鎌倉を訪れているにもかかわらず、「なぜ、うちの店には1000人に1人しか来ないのか」(岩村さん)と考えた。

一つには鎌倉市内の飲食店の競争が激しくなっていることがある。全国的には飲食店の数は減少傾向(総務省統計局)にあるのに対し、鎌倉市の飲食店は2010年に約2000軒だったのが、2016年には2300軒近くまで増えている(鎌倉食品衛生協会年報)。

また、駅からのアクセスが不便な鎌倉山という立地も不利な要素と思われた。


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