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今年のエースであった橋本も、1年夏時点では野手として出場していた。現在は本格派右腕として140キロ台半ばのストレートに、一級のスライダーとフォークを操り、コントロールも抜群だが、投手を始めた段階ではコントロールは決して良いとはいえなかった。永井監督はいう。

今年の夏の大会を終えた後の集合写真(写真:長田高校提供)

「橋本はプロへ、という意識が強く、自発的に取り組むことに長けた選手でした。ケガと勉強との兼ね合いから、あまり練習できていないなかで、大幅に球速を伸ばしつつあれだけの変化球とコントロールを身につけるのは並大抵ではない。

指示待ちではなく、自発的にプロの選手のトレーニングを学び、その中でどのトレーニングが自分に合うか、という“試す力”がありました」

永井監督の指導は、生徒に「これが正しい、こうすべきだ」と答えを明示することは少ない。過程の中で、ヒントを提示することはあっても、最終的には自分で考えて答えを出さないと劇的な伸びは期待できないからだ。

就任当初は、大声を荒らげて怒りを爆発させるシーンもあったというが、思うような結果はついてこなかった。今では生徒たちの自主性と思考力を養うため、極力指示は出さないようにしているという。

定石的な野球ではなく、打ち勝つための練習を

公立校が私立に勝つための慣例は、ロースコアゲームで守り勝つことだろう。

だが、長田の場合、逆説的に練習では打撃練習に重きを置く。永井監督はその理由をこう説明する。

「公立高校で守備の堅いチームというのは限界があるというのが私の考えです。守備のミスは確かに流れを変えますが、ウチの場合はそのミスが多くていちいちダメージを受けていたらキリがないんです(笑)。

それに守り勝つ野球では、1度流れが相手にいった際に引き戻すのが極めて難しいという面もある。まずは野球の楽しさを選手に知ってもらう意味でも打撃練習にかける割合が多いです。好きなことは上達も早いですから。まずは“打てる”という意識を植え付けることからスタートです」

さらに永井監督が熟考したのは、いかに生徒の探究心を刺激するかということだ。まじめで研究熱心な生徒が多いという特徴からも、理論や方法論に明確な正解がない打撃練習は、思考力を鍛えるという意味で着手しやすいポイントでもあった。監督が目をつけたのは、生徒たちの数字面の強さだった。

野球部の黒板には、こんな文字が並んでいる。

セーフティバント4.2秒、クイック1.2秒、捕手から3塁への送球1.7秒、20メートルダッシュ3.15~3.45秒。

これは単なる1例に過ぎず、各プレーに細かい数字設定がいくつかある。選手たちは、これらの数字や自身に課せられた数字を頭に入れ、日々の練習に励む。

野球部に所属する生徒の半数以上が理系と、理系脳が占める割合が多い。それも手伝い、数字やデータがもたらす説得力は大きく、生徒たちの胸にストンと落ちた。


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