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ただ、補償を提供するだけでない。行方不明者の捜索を支援する付帯サービスも併せて提供する。たとえば認知症の人の財布や携帯に張り付ける「緊急連絡ステッカー」を用意。行方不明者を発見・保護した人が、ステッカーに記載のフリーダイヤルに電話をかけると、家族に電話が転送される仕組みだ。さらに、「捜索協力支援アプリ」も開発。行方不明に気づいた家族が、同アプリを通じて、捜査協力者に一斉に捜索を呼び掛けることもできる。

捜索協力依頼アプリ「みまもりあい」の画面。認知症の人の家族が行方不明に気づいた際に、事前登録してくれている協力者に対して、一斉に捜索依頼ができる

捜索費用補償と個人賠償責任補償、被害者への見舞い費用補償、交通事故などによるケガの補償がセットで保険料は月額1300円。「販売目標は特に設定していない。まずは認知症の人とその家族の役に立てるかを見極めたい」と東京海上日動個人商品業務部の鳥島遙課長代理は語る。すでに、認知症対策に積極的な自治体から問い合わせがあるという。

従業員を離職から守る子のための介護保険

長寿化の中で認知症とともに大きな問題となっているのが「介護」だ。要介護認定者は640万人を超え、親の介護に伴う離職者も年間10万人に達する。特に働き盛りの30代後半から50代前半の離職率は高く、企業にとっても貴重な人材を失うのは痛手となる。

損保ジャパン日本興亜は10月から、企業の従業員を対象に、親を介護する際に負担する費用を補償する「親子のちから」を発売する。認知症を含めた「要介護1」から対象としているのが特徴で、公的介護保険で対象外の自己負担や家事代行・安否確認サービスの利用費用などを保険金として支払う。

また、保険加入者が同社と提携する事業者のサービスを利用した場合に、その事業者に保険金を直接支払う利便性の高い仕組みも取り入れた。提携事業者には、SOMPOホールディングス傘下のSOMPOケア(有料老人ホーム)やフレッシュハウス(住宅改修)に加え、ALSOK(安否確認サービス利用)などが名を連ねる。

加入者への情報提供の一環として、Webサービス「SOMPO笑顔倶楽部」で認知症の最新情報や介護に関するサービスの紹介などを行う。保険とサービスの両面で?介護離職ゼロ?を後押しする構えだ。

認知症、介護といった問題に加えて、日本人の長寿化に伴って増えているのが一人暮らしの高齢者、いわゆる「独居老人」だ。2015年の国勢調査によると、65歳以上の男性でひとり暮らしの人は192万人。高齢者(65歳以上)人口に占める割合は約13%。女性のひとり暮らしはもっと多く、同400万人で21%を占めている。実に65歳以上の女性の5人に1人がひとり暮らしとなっている。

こうした中、医療機関にかかっても、年金だけの収入では医療費が支払えず、病院側も家族の誰にも請求できずに、未収につながるケースが出ているという。医療機関には「正当な理由がなければ医療行為を拒んではならない」という、医師法第19条で定められた応召義務があり、未収金が生まれやすい背景になっている。

そこであいおいニッセイ同和損保は昨年から、未収金が発生してから一定期間たっても回収できない場合に、医療機関に保険金を支払う「医療機関向け取引信用保険」を発売している。ベッド数が200床以上の比較的規模が大きい病院を対象に加入促進をしている。

同社企業商品部の保証・信用グループの大野学グループ長は「まだ成約件数は少ないが、発売以後の問い合わせは非常に多く、医療機関が未収金に悩んでいる様子がうかがえる」と語る。

長寿化の流れとは少し話がずれるが、医療機関の未収金問題には独居老人と別の要因もある。外国人旅行客の急増だ。外国人が旅行先の日本で医療機関にかかっても、健康保険が適用されず、医療費の10割が自己負担となる。旅行傷害保険に加入していればそれでカバーされる場合も少なくないが、観光庁の調査によると、訪日外国人旅行客の旅行傷害保険への加入率は約7割で、約3割は保険に加入していない。

そうした旅行傷害保険に未加入な外国人の中には、日本の医療機関で治療費を払えずに帰国し、回収が難しくなるケースが増加しているという。

認知症や介護、医療など人生100年時代に潜む「個人のリスク」をカバーする新しいタイプの保険商品が今後も出てきそうだ。

高見 和也 東洋経済 記者

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たかみ かずや / Kazuya Takami

大阪府出身。週刊東洋経済編集部を経て現職。2019?20年「週刊東洋経済別冊 生保・損保特集号」編集長。

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