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尊厳死と安楽死の異同をまとめてみると、このようになるかと思います。

自殺的要素と他殺的要素の有無については異論のあるところかもしれません。尊厳死こそ自然死と考える立場の人は、自殺的要素など皆無と言うでしょう。しかし、体のあちこちにチューブをつけられる”スパゲッティ症候群”になるのは御免と、栄養補給のための胃管や点滴を拒み続ける行為は、餓死を意図して断食を決め込むそれと多分に似て、死に急ぐ自死行為と言えなくはありません。

安楽死は、オランダを除けば自ら致死量の薬を飲んだり、それが入った点滴のストッパーをあけて自らの血管に流し込んだりするのですから、多分に自殺的要素を含んだものといえます。

”未必の故意”は法律用語で、「犯罪の意図はないが、この行為に及んだら人を殺傷することになるかもしれないと頭の片隅では認知しながらその行為に踏み切ってしまうこと」で、有罪を免れません。スイスのように安楽死が法制化された国でも医師が自ら手を出して患者に致死量の薬を服ませたり点滴のストッパーを開いて流し込んだりしたら”未必の故意”として告訴されかねません。

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呆ける前に自らの意志で安楽死を求めてスイスへ行くと近著に書いた橋田壽賀子さんは、かの地で受諾されるまでには相応の面倒な手続きがいることも知ったからでしょう。

わざわざ海を越えて遠い異国にまで行かなくとも、ここ日本で楽に死ねるようにと、安楽死の一刻も早い法制化を訴えています。

しかし、ほぼ市民権を得ている尊厳死さえ法制化されていない日本で、安楽死が法的に認められる日はほど遠いように思われます。

尊厳死法を制定しようとの動きは、尊厳死協会の働きかけもあって、国会議員100人ほどが超党派の組織を結成して試みられたようですが、立案にまでは至らず、中休みの形になっています。

大鐘 稔彦 医師

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おおがね としひこ / Toshihiko Ohgane

1943年愛知県生まれ。1968年京都大学医学部卒業。母校の関連病院を経て、1977年上京。民間病院の外科部長、院長を歴任。その間に「日本の医療を良くする会」を起会、関東で初のホスピス病棟を備えた病院の創設や、手術の公開など先駆的医療を行う。1999年に30年執ってきたメスを置き、南あわじ市の公的診療所に着任。地域医療に従事して今日に至る。医学専門書のほか、エッセイ、小説を手がけ、アウトサイダーの外科医を主人公とした『孤高のメス』(全13巻・幻冬舎文庫)は映画化された。

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