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既報の通り、フランスではリベラルなエマニュエル・マクロン政権が青息吐息の状況にまで追い込まれている。マクロン大統領が華々しく就任した2017年5月はトランプ大統領誕生やブレグジットを受けて米英政治が混乱を極め、「ドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領が欧州だけではなく世界の政治をリードし、安定を取り戻していく」という評論が現実味をもって展開されていた。だからこそユーロ相場も実効ベースで春先から値を戻したのであった。

あれからわずか1年半余りで双方が共倒れ寸前になっているとは想像できなかった展開である。確かに、選出の経緯や同国の政治・経済・金融情勢を踏まえればマクロン大統領の支持基盤は危ういと筆者は考えていた。しかし、このタイミングでドイツまでもが極右勢力に付け入る隙を与えれば、いよいよEUのコアないしセミコア国のすべてで既存政党が駆逐される状況になる。

それが時代の要請とすれば致し方ないが、「メルケルCDU党首の歴史は共通通貨ユーロの歴史」でもあり、「メルケル首相の歴史は欧州金融バブルの生成と崩壊の歴史」でもある。名実共に第一人者であるメルケル首相が退場を迫られる契機となったのが昨年9月の連邦議会選挙だが、この頃を境にEUないしユーロは第三の局面に入ったのではないかと筆者は捉えている。

「ユーロ3.0」でEU/ユーロは新たな試練へ

それは黎明期と全盛期が重なった?「1999?2007年」、危機局面であり離脱国まで現れた?「2008?2016年」に続く、第3の局面(?:2017年?)である。さしずめ「ユーロ3.0」とでも言うべき局面だろうか。

「危機である」という意味で?と?は共通しているが、防波堤の有無という意味では大分違う。?の局面では、ドイツやオーストリア、オランダといった域内の「優等生」グループにおいても(右派含む)ポピュリスト勢力が既存政党を脅かすような展開はそう見られなかった。それだけ今はEU/ユーロというシステムが本格的に受容されなくなっている局面に入ったと言えるかもしれない。

今回の党首選に絡めてもCDUが既存政党の「最後の砦」だという評論はよく目にするものであり、クランプカレンバウアー新党首の「我々は欧州最後のユニコーン、最後に残った国民政党だ(8日、日本経済新聞)」という言葉もそれを意識している節がある。

とりあえず党首選を経て何とか「最後の砦」は守られた格好だが、攻め立てるAfDからすれば望んだ展開とも言える。近年ではドイツやフランスといった大国主導に苦情を申し立てる北部欧州連合「新ハンザ同盟」も登場しており、クランプカレンバウアー新党首(≒次期首相)には彼らへの配慮も欠かせない。ユーロ3.0は名実ともに共同体の「崩壊」を乗り切れるかどうかが試される時代であり、その舵取り役候補がまずは決まった格好である。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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