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さて、そうしたBセグ上位モデルになると、マイルドハイブリッドだけでいいのかということになる。そこで前述のAMT+ハイブリッドの出番である。このハイブリッドは現時点ではインドよりも、先進国がターゲットだ。すでに書いたようにAMTは安価で効率がよく、故障しにくく、修理がしやすいというすばらしい要素を持っているが、唯一大きな欠点がある。それは「トルク抜け」だ。シフトアップのとき、頭が前へ持っていかれるほど駆動力が途切れ、そのせいで乗り心地がひどく悪い。スズキはそこを解決してみせたのだ。

何をやったのか??変速の間、途切れるトルクをモーターで補って平滑化させた。言葉で言うのは簡単だが、現実は簡単ではない。トルクの伝達を司るクラッチはタイヤとエンジンの間に位置している。そうでなければ断続できないから当然だ。トルク抜けはこのクラッチが切れている時間に発生する。つまり構造上、クラッチを挟んだ上流側、つまりエンジン側にモーターがある限り、クラッチが切れた際のトルク抜けには役に立たない。

エンジン→クラッチ→デフ→モーターと配置してデフをエンジンとモーターで挟んで両側から駆動する方式にした。クラッチとデフの間に組み込めばデフケースがモーターを内蔵する専用設計になってしまうが、モーターを反対側に置くことで、モーターの有無にかかわらず同じデフを使えるようにしたのだ。天才的だと思う。

先を見越したスズキの戦術

つまりスズキは、インドマーケットの環境対策に向けて、コスト的にすでに折り合いがついているマイルドハイブリッドを持ち、それ以上をマーケットが求めるようになれば、同クラスとしては圧倒的に安価なストロングハイブリッドシステムをすでに準備し終えている。そしてハリヤナ工場に加えてグジャラートの第2工場でもトランスミッションの生産を始めた。

もちろんその先には本格的なEVの時代があるかもしれない。それに備えては、トヨタとジョイントしてインド向けのEV開発がすでに始まっている。

さて、そもそもこれは第3四半期決算の話だったが、どういうまとめになるだろうか。 スズキはずっと以前から、インドに本当に必要で、実現可能な環境対策は何かについて真面目に考えてきた。現実に直面して右往左往した政策当局は血迷ってEV規制をかけようとしたが、家庭の停電が日常的な国でEVは現実的ではないし、そもそもの所得水準から言ってもオールEVという過激な規制をすればモーターリゼーションの息の根を止めてしまいかねない。

実現可能なサステナビリティをスズキはうまく読み、しっかり手を打っている。確かにここから1年か2年、あるいはことによるともう少し世界経済は荒れた局面を迎えるかもしれないし、スズキの決算は当然その影響を受けるだろう。しかしロングで見れば、スズキの戦略は今怖いほど当たっている。それがはっきりした決算だった。

池田 直渡 グラニテ代表

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いけだ なおと / Naoto Ikeda

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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