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1992年のこの裁判で、アレンは、証拠不十分を理由に無罪判決を受け、世間はほとんどそれを忘れかけていた。だが、「#MeToo」が盛り上がる中、ディラン本人が痛切なエッセイを執筆する。それを受け、アレンの『A Rainy Day in New York』に出演したティモシー・シャラメやレベッカ・ホールは、本作で得たギャラを複数の団体に寄付すると発表した。

同じ頃に北米公開された『女と男の観覧車』も興行成績は振るわず、アマゾンはアレンに、「今は正しいタイミングでないので同作の公開を1年遅らせよう」と提案。アレンも了承したのだが、2018年6月、アマゾンはこの映画を公開しないと決め、残り3本の契約も破棄すると申し出た。

アレンの訴訟は、これを受けてのものだ。訴状でアレン側は、「この疑惑は25年も前のもの。公に知られており、アマゾンが知らなかったはずはなく、契約解消の正当な理由にはならない」と主張。また、映画製作において駆け出しだったアマゾンが、「アレンの名前を使うことで利益をこうむったのに、それに伴う義務を逃れようとするものである」とも述べた。

映画界から相手にされなくなったアレン

アレン側が求めている損害賠償は、6800万ドル(約75億円)。その金額を丸々払うことになるのかどうかはさておき、おそらくアマゾンが負けるだろうと、多くは見ている。アレンが言うとおり、アマゾンは彼の過去の疑惑を知ったうえでこの契約を結んでいるからだ。契約当初と比べ、今の世の中の空気が大きく変わったというわけである。

アレンの場合は、先に述べたとおり、無罪判決が出ていることがより複雑にする。ディランの兄モーゼス・ファローは父であるアレンに味方した。事件当時、「自分はそこにいたが何もなかった」と、昨年5月にブログに書いている。

ちょっとでも怪しい人は全員罪人なのか、あるいは20年も前に下品な言葉を使った程度でも責められるのかなど、線引きに関しては、「#MeToo」勃発以来、ずっと論議されてきたこと。レイプで有罪判決を受けた後、国外逃亡したロマン・ポランスキー監督とは違うと、アレンを弁護する声も確かに聞こえる。

しかし、被害者本人がまだ被害を訴えているうえ、その疑惑は少女に対する性的虐待と非常に重大で、無視できない。そう感じる人は多く、アレンの最大の強みはトップクラスのスターを惹きつけられることだったのに、今ではみんなが距離を置きたがるようになってしまった。

一緒に仕事をしたくないのはアマゾン社内も同じ。プライスを追い出した後、アマゾン・スタジオズのCEOにはジェニファー・ソークが就任した。彼女以外の候補者も女性ばかりだったようで、新たな体制のもと、クリーンなスタートを切ろうというアマゾンの意図がうかがえる。

そこに自社のセクハラ男が残した置き土産を取っておく場所などなく、まさに金を払ってでも処分したいことだろう。そもそもアマゾンは役員の報酬もそれほどよくないらしい。今やみんなからそっぽを向かれている人物に膨大な金額を払い続けるのは、社員全員の士気を下げることにもなりかねない。

アレンは現在83歳。この年齢になるまで、彼は毎年1本のペースで映画を作り続けてきた。彼は、筆者とのインタビューでも、「土木作業をずっとやるならともかく、映画を年に1本作るなんて、全然大変じゃないよ。脳外科医が手術に挑むわけでも、月に人を飛ばすわけでもない」と語っている。


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