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10?12月期の営業利益は9400万ユーロと四半期ベースで同社として初めての黒字を達成(前年同期は8700万ユーロの赤字)。ただし、これは会社にとっても想定外だったようだ。黒字化の要因は、株価の下落によってストックオプションやRSU(制限付き株式)関連費用が大幅に減ったことが大きい。なお、純利益は4億4200万ユーロの黒字だった。

スポティファイは音楽レーベルやアーティストなど著作権者へのロイヤルティーの支払いに加え、研究開発費やマーケティング費も積み増している。「業界の再成長を促す」という使命を自ら背負っているため、アーティストに対するロイヤルティーを減らすわけにはいかない。一方で、2018年はレコメンド機能などを強化するべく、人工知能や機械学習の開発など、研究開発費を4億9300万ユーロも費やした。会社は先行投資を進めており、まだ安定的に利益を出す段階ではないのだ。

こうした点から、投資家は目先の利益ではなく、将来の業績につながる有料会員数や売上高の伸びを重視している。今回の決算はその高い期待に届かなかったため、株価下落につながったようだ。

ポッドキャスト投資に5億ドル

また、6日にはアメリカのギムレット・メディアと、アンカーの買収も発表している。両社ともポッドキャスト(音声コンテンツ配信)の関連企業だ。スポティファイのダニエル・エクCEOは公式ブログで、「(買収によって)スポティファイで聴かれるコンテンツの20%以上が音楽以外になると考えられる」「世界をリードするオーディオプラットフォームになりたい」と展望を語っている。スポティファイはポッドキャストについて、ユーザーのロイヤルティー向上や、解約防止効果があるとして積極的な姿勢を示しており、2019年も4億?5億ドルを投じる方針だ。

サービス地域の拡大もあり、現在も有料会員数は高い伸びを示しているが、配信楽曲数は4000万曲超まで拡大した。楽曲数が今後ドラスティックに伸びるとは見込みにくい。音楽配信だけでは、競合サービスとコンテンツにおける差別化が難しくなっているのだ。スマートスピーカーの普及などもあり、世界的な急成長が期待されるポッドキャストに積極投資することで、プラットフォームとして一層のユーザー獲得と差別化を同時に進める戦略のようだ。

日本では2016年からサービスを開始した(撮影:風間仁一郎)

2019年12月期について、会社は月間アクティブユーザー数が2億4500万?2億6500万人、有料会員数は1億1700万?1億2700万人。売上高は63億5000万?68億ユーロ、営業利益は2億?3億6000万ユーロの赤字を見込んでいる。

今期も有料会員数の拡大はもちろん、ポッドキャストをはじめとする買収策は焦点の1つだ。目先の利益ではなく、将来の収益拡大に向けた有効な手をどれだけ打ち続けられるかがポイントだろう。現在の株価は上場時の水準を下回って推移しているが、世界の音楽業界の牽引役として存在感を発揮できるか。再び勝負の1年が始まった。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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