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そもそも、一斉に大人数の受験生を集めて入試を実施する試験方法をやめて、別の方法で入学者を選抜すればよいという考え方もあろう。ただ、大学・短大進学率が60%弱に達しているわが国において、半数を超える若者に高等教育を授けるべく、大学をはじめとする高等教育機関で入学者を選抜しており、少数の入学者だけを選抜できればよいというわけにはいかない。

短い期間で、大人数の受験生に、本人が持つしかるべき能力に基づいて、入学許可を出す形での入試を行わなければならない。日本の教育制度や高等教育のニーズを踏まえれば、今の一般入試をなくすことは難しい。

入試をあまり厳格にせず、むしろ卒業判定を厳格にして、しかるべき能力が身についていなければ、卒業できないようにすればよいではないか、という考えもあろう。現に、アメリカの大学はそうした傾向が強い。ところが、日本の大学は今のままではそうはならない。

それはなぜか。文部科学省が各大学に出している補助金(国立大学には国立大学運営費交付金)が入学者数に連動していることが一因である。文部科学大臣が認可した学生定員を一定以上超えると、文科省が交付する補助金の額が減額される。

したがって、入学者数を安易に増やすわけにはいかない。だから、入学者数を増やしつつ、卒業判定を厳しくして卒業生の質を保つ形で大学を運営するという方針を採ることができない。入学者選抜をあまり厳格にしないような入試を実施することは、事実上許されていないといってよい。

従来型の一般入試は当面続く

こうした事情から、各大学は入試の方法を抜本的に変えることができないできた。今まで一般入試で多くの学生を入学させてきた大学は、引き続き従来型の一般入試を行うことを選ぶ。それは、2020年度から新たに実施される大学入学共通テストになってからも基本的には変わらない。

メール、事務処理、会議の配付資料、各種の届出、さらには通貨まで、紙でなくてよい時代になったのに、ペーパーテストが不滅であるかのように毎年入試が実施されていく。

公正な試験環境の下、デジタルデバイスで解答が入力できれば、答案の書き直しも容易になるし、合否判定の作業負担が少なくなり、ミスも少なくなる。そうなるには、外界から遮断して他人の助けを借りられないようにして本人の能力を問うことができ、廉価で安定して実施できるデジタルデバイスの登場が待たれる。ペーパーテストが、デジタルデバイスでのテストに置き換わる日は来るだろうか。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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