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巨大災害につながるリスクを持つ火山噴火。被害を最小化するのに欠かせないのが「いつ」、「どのくらい」の規模が起きるかという予測だ。鹿児島市の桜島にある京都大学防災研究所火山活動研究センター長の井口正人(60)は、1981年に前身の桜島観測所に赴任してから37年間、鹿児島市に住み続け、火山活動に向き合い続けてきた。

「火山防災はやるべき対応が多い。火山災害を制するものは自然災害を制する」。今年4月28日、鹿児島市が防災力の向上や防災ノウハウの発信を狙い発足した「鹿児島市火山防災トップシティ構想検討委員会」の初会合で、委員長に就いた井口は力説した。

現場主義を徹底 助手時代に原点

日本火山学会の会長を務めるなど、火山研究の第一人者となった今も桜島の麓にあるセンターに詰め、日夜研究を続ける井口。徹底した現場主義の原点は、桜島火山観測所の助手時代にある。

「活火山に接することのない」岡山県津山市に生まれたが、地球の動きに興味を持ち、京大に進学。地下構造の探査などの研究を続けた。転機は大学院生の時。桜島火山観測所の所長だった加茂幸介に「助手のポストがある」と誘われ、鹿児島に来たのが火山との本格的な出合いとなった。

赴任当時は桜島の活動が活発で、噴火も一つ一つの規模が大きかった時期。赴任数日後に爆発音を伴う噴火を経験したが、完全にゼロからの実践で、研究テーマを考えること自体が大問題だったと振り返る。ひたすら走り回ってテーマを見つけるしかなかった。「加茂先生の指示でやらされたことがこの年になって初めて役立っている」

その一つが85年の「ハルタ山観測坑道」の整備に従事したことだ。火山活動に伴う変化のみを高精度に観測することを目的に、日本で初めて火山の脇腹に観測用計器を置くトンネルを掘る事業。井口は工事監督のような役割で、毎日のように現場に通った。

桜島ではその後も、2006年に有村観測坑道、16年に高免観測坑道が整備され、3つの坑道で複合的にデータを収集できる体制が整った。世界でも最先端の観測環境には、井口がハルタ山で得たノウハウが詰め込まれている。

観測データ収集 精度向上めざす

今、取り組むのは噴火がいつ、どのくらいの規模で起きるかを予測し、その精度を向上させていくこと。そして、発生時の状況をリアルタイムで把握することだ。「今後、1、2時間で噴火が起きる確率は言えるが、これを噴火の規模や火山灰がどこまで行くかという情報にまで持っていくこと」が研究テーマとなる。

例えば、観測坑道で得られた噴火前の膨張、噴火後の収縮のパターンを見れば、噴火時にどれくらいの火山灰が火口から出ているかがわかるようになってきたという。こうした多様な観測データを確率分布に整理し直し、予測精度を高めていく。

火山活動の災害情報としての整備は「他の分野から見れば遅れている」。例えば、レーダー網の整備などで豪雨災害の雨量は定量的な把握が可能。地震もマグニチュードや震度で規模感が瞬時に伝わる。だが、「火山の噴火は規模感が定着しておらず、風評被害の要因にもなっている」と指摘する。

桜島と向き合い続け、もうすぐ40年。「感傷的な目で見たことは一度もない」と話す井口だが、火山活動は息が長く事例を積み上げていかなければならない研究対象なだけに、「一人の研究者が見続ける意味がある」。「人間は火山に生かされているという認識がベースになければいけない」。そんな思いを胸に、井口は今日も桜島を見上げる。=文中敬称略

いぐち・まさと

 1958年(昭33年)岡山県生まれ。京都大卒。81年京大防災研究所桜島火山観測所(現・火山活動研究センター)助手、准教授を経て、2012年教授、火山活動研究センター長。日本火山学会会長のほか、鹿児島市の火山防災トップシティ構想検討委員長も務める。

鹿児島支局長 久保田泰司

写真 塩山賢

探検!九州・沖縄は週末週初に掲載します


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