ニュース本文


ゴール前には本田がいた。あたかもそこが自分の居場所であるかのように、そこで決めるのが自分の存在意義であるかのように。

78分、岡崎と大迫の頑張りで中央を攻めたボールがゴール左脇へとこぼれたとき、右サイドからゴール前へと駆けつけていた。乾による左からのリターンは、GKともつれる岡崎をすり抜けるようにフリーの本田の目の前へ。左利きの本田が、これを外すはずもない。

勝ち越された1分後の72分から香川に代わりトップ下に入った。攻撃にシフトチェンジする日本は間髪入れず75分に岡崎を投入、布陣を2トップ気味に変更し、本田は右MFへ回っている。これも何かの運なのか。もしトップ下のままで中央にいたら、あのリターンが本田の足元へ転がり込むこともなかっただろう。

「こういう流れで出て結果を出せたことをうれしく思う」。これでW杯通算4得点目。W杯での日本選手最多得点をまた一つ伸ばした。

32歳での3度目のW杯は控え組で迎えている。心と体の準備のあり方は、先発が当然だった時代とは変わった。1回目のチャンス、1つの幸運をものにしなければという執着も重圧も今までになく強いのだろう。「サッカー人生で、これだけサブというものに対して前向きになったことはない」

「彼のゴールは格別」と長友が我が事のように喜んだ。GKの前でつぶれ役になり、乾のラストパスをGKが触れなくするという"陰のアシスト"を果たした岡崎は「やっぱりお前の所にボールがいくんだ」と悔しいような、うれしいような。

運を引き寄せる力、あるいはそれが巡り来るまで、自分を否定せずに努力を探る力なのかもしれない。特別な舞台での4ゴールすべてを戦友として見届けてきた長友が賛辞を送る。「あいつは、W杯に愛された男なんじゃないですか」

(エカテリンブルク=岸名章友)



記事一覧 に戻る 最新ニュース読み比べ に戻る