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【シリコンバレー=中西豊紀】米議会にくすぶるIT(情報技術)企業へのけん制論がグーグルを巻き込み始めた。米下院は11日、同社のスンダル・ピチャイ最高経営責任者(CEO)を公聴会に初めて呼び、検索の公平性や中国再進出について説明を求めた。膨大なデータを持つ企業への警戒は米政界でも高まっており、年明け後も互いの駆け引きは続きそうだ。

「グーグルに政治的な偏向はない」。午前10時から約3時間半続いた司法委員会の公聴会でピチャイ氏が説明に多くの時間を割いたのが、検索結果の公平性だ。出席した共和党議員の一部はグーグルが同党に不利になるよう結果に手を加えていると批判。民主党支持者が多いとされるグーグル社員による情報操作への疑念をぶつけた。

「偏向」議論に火を付けたのはトランプ米大統領だ。8月、トランプ氏にまつわるニュースを検索すると96%がCNNなど同氏に批判的なリベラル派の報道になると指摘した。「規制が必要だ」と自身のツイッターでつぶやいていた。

今回の公聴会では議員側がグーグルの偏向を証明する説得力のあるデータを示せなかった。ピチャイ氏は「検索された言葉との関連性、新しさ、人気など200の指標をもとに適切なウェブページを表示している」と述べ、アルゴリズムが機械的に判断しているという主張を繰り返した。

ほかに議員らが問いただしたのは検索事業での中国への再進出計画の有無だ。ピチャイ氏は「今は内部的な取り組みだ」と計画の存在は認めながらも「現時点で進出の予定はない」と明言。米中のハイテク摩擦が取り沙汰されるなか、外交リスクが伴う議論の深掘りを避けたとみられる。

公聴会はIT大手にとって重い意味を持つ。18年に入り、すでにフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO、ツイッターのジャック・ドーシーCEOがワシントンの公聴会で証言した。今回はグーグルのトップも議会に呼び出され、シリコンバレーが政治とは無縁ではいられないことが改めて明確になった。

グーグルの公聴会は論点がプライバシー保護に絞り込まれたのが特徴。

公聴会で、ある議員はスマートフォン(スマホ)をかざし「私がこれを持って移動したらグーグルはその情報も把握できるわけだな」と迫った。別の議員は「名前、年齢、検索結果、位置情報、会話のやりとり」と、グーグルが捕捉できる多様な個人データを並べ立てた。委員会の幹部議員は「グーグルはその巨大さが故に悪用時の影響が大きい」と指摘した。

上院共和党のジェリー・モラン議員と上院民主党のリチャード・ブルーメンソル議員は年明けにも超党派で連邦プライバシー保護法の素案を提示する方針を示した。個人データをどう守るかという発想は先行する欧州だけでなく、米議員にもじわりと浸透してきた。

グーグルやフェイスブックはしたたかだ。米調査機関の調べでは、両社が政界ロビー活動にあてる費用はそれぞれ、全米民間企業の中でトップ10に入る。グーグルは18年の支出額が過去最高に上る可能性が高い。2社はいずれも、むらのある州法でなく連邦レベルの法律を支持している。水面下では法案作成への関与を模索しているようだ。

公聴会という表のイベントが増えることで、裏側での政治交渉も活発になる。ワシントンの政界とシリコンバレーのIT業界は相反するように見えるが、いまや「落としどころ」を探る間柄だ。



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