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【パリ=白石透冴】フランスを再びテロの脅威が襲った。11日に仏東部で起きたテロの疑いがある事件では、当局が把握していた危険人物が犯行に及んだ。欧州では大規模なテロは下火になっているが、単独犯による小規模な事案は後を絶たず、治安当局による対策にも限界がある。仏全土の反政権デモの対応に苦慮するマクロン政権にとっても課題となる。

東部ストラスブールで銃を乱射し、少なくとも2人を殺害した男(29)は、12日昼(日本時間12日夜)時点でまだ捕まっていない。11日時点で当局は死者を3人と発表していたが、1人は脳死状態にあるという。仏治安部隊が追い詰めて2度銃撃戦となったが、タクシーを使うなどして現場から逃げたもよう。腕にケガをしているとの情報がある。

男はストラスブール生まれのフランス人。窃盗や暴行の犯罪歴があり、乱射事件前の11日朝に強盗容疑などで逮捕する予定だった。だが直前で取り逃がし、自宅からは拳銃、爆発物、ナイフなどが見つかった。

12日に記者会見したアイツ検事によると、男は犯行時、アラビア語で「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んでいた。捜査当局はこれまでに4人を事件に関わった疑いで拘束し、男の足取りについて手掛かりがないか調べている。

欧州では最近、2015年のパリ同時テロのような大規模テロは起きていない。だが小規模な事件は散発的に起き、5月にはパリ中心部で男が刃物を振り回し1人が死亡する事件が起きた。3月には南仏トレーブのスーパーに立てこもった男が4人を殺害している。

過激派組織「イスラム国」(IS)がシリアやイラクで弱体化したことで、元戦闘員などが次々に欧州に戻っている。たとえ危険人物を特定できても、全員の行動を24時間体制で把握するのは不可能に近く、治安当局は手を焼いている。

マクロン政権は個人に対する監視を強めたテロ対策新法を2017年に施行済みで、追加の新法制定には消極的とみられる。18年1月以降少なくとも6件のテロ事件を未然に防いだ実績などを強調する見通しだ。

ただ、マクロン政権は蛍光の黄色いベストを着て参加する運動「黄色いベスト」のデモの対応に追われ、支持率も就任以来最低の2割台と低迷している。治安を巡る批判が世論に広がれば、さらに政権運営が苦しくなる懸念もある。



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