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【ブリュッセル=森本学】欧州連合(EU)は17日、2030年の自動車の二酸化炭素(CO2)の排出量を21年比で37.5%減らす規制案をまとめた。今後自動車メーカーごとに具体的な削減幅を決める方針だが、ガソリン車やハイブリッド車の燃費改善では達成は困難とみられる。各メーカーは新車の3分の1程度を電気自動車(EV)などに代替する必要があるとの見方もある。

EUではこれまで執行機関である欧州委員会と、加盟国政府の意見を代表する閣僚理事会、欧州議会がそれぞれ別のCO2の排出規制案を打ち出して議論していた。欧州委員会(30%)や閣僚理事会(35%)の提案よりも厳しく、最も厳しかった欧州議会(40%)の提案に近い形での決着となった。今後、欧州議会と閣僚理事会の承認を経て正式決定する。

EUは21年に乗用車1台の1キロメートル走行あたりのCO2排出量を全企業平均で95グラム以下とする目標を掲げ、欧州市場で自動車を販売する各社が取り組んでいる。非営利団体「クリーン交通の協議会(ICCT)」によると、この目標でも17年は119グラム。消費者のディーゼル車離れで16年より増えており、これを大きく上回る目標の実現は容易ではない。

今回決めた37.5%の規制値はEU全体の削減幅であり、すべての乗用車に一律に適用するのではない。販売台数や車種構成にあわせてメーカーごとに異なる削減幅が割り当てられることになる。それでも燃費の良いディーゼル車とハイブリッド車の比率を高める既存の戦略の延長線上で対応できる目標とみる向きは少ない。

カギを握るのがEVへのシフトだが、17年のEUの新車販売に占めるEVの比率はプラグインハイブリッド車(PHV)を含めても1.4%にすぎない。今回の規制は各メーカーにEVシフトの急加速を迫る内容といえる。

EUが重視するのは温暖化ガスの域内排出量を30年までに90年比で40%削減するとした「パリ協定」だ。さらに11月には欧州委員会が50年までに「実質ゼロ」を目指す新目標を提案。温暖化ガス削減で世界を主導する姿勢をアピールしてきた。自動車へのCO2排出削減でも高めの規制を打ち出すのもその一環といえる。

EU域内では17年以降、フランスや英国、オランダなどが相次いで30?40年にガソリン車やディーゼル車の販売を禁止する計画を公表。11月にはスペインも追随した。CO2排出規制の強化はこうした「脱ガソリン・ディーゼル」の動きと表裏一体だ。

削減規制は自動車が対象だが、EVへのシフトで需要の高まる電力部門については、再生可能エネルギーの拡大などで温暖化ガス削減を急ぐ。ただ、自動運転や人工知能(AI)の普及による電力需要が増える中で、EVシフトが急加速すれば電力の需給が逼迫する可能性もある。電力需要増に対応する多額の投資コストをどう負担するかも課題となる。



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