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【ジャカルタ=大島悠亮】石破茂首相とインドネシアのプラボウォ大統領の11日の会談では、海洋安全保障分野の協力が主要な議題となった。インドネシアは米国と中国の対立の中で「バランス外交」を展開している。首相は覇権主義的動きを強める中国を名指しすることは避けつつ、連携強化を狙った。
「共に海洋国家で、米中の大国の間でその関係やバランスに配慮しながら外交を進めていく点で非常に似ている」
首相は11日の会談で、日本とインドネシアの類似点を語った。会談では、首相が同志国軍を支援する「政府安全保障能力強化支援(OSA)」を通じ、高速警備艇を無償供与すると表明した。
首相が10日にマレーシアでアンワル首相と会談した際も、海洋安保の連携強化が主要テーマとなった。背景には、経済的・軍事的威圧を強める中国の存在がある。ただ、首相は両国首脳との会談後にそれぞれ行った共同記者発表で、中国を名指しすることは避けた。両国とも南シナ海の領有権を中国と争う一方で、経済面などでは連携を図っているからだ。
実際、プラボウォ氏が昨年11月に就任後初の外遊先として選んだのは中国だった。習近平国家主席と会談し、クリーンエネルギー産業などでの協力を確認している。
首相は今回の訪問で表明した高速艇の無償供与などの具体的成果を通じ、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国と連携強化を図りたい考えだが、道は険しい。
20日に就任するトランプ次期米大統領がどのようなASEAN外交を展開するかは明確になっておらず、第1次政権では「東南アジア軽視」が指摘された。これに対し、バイデン政権は経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」設立を主導し、日本も協力。インドネシアもマレーシアも参加している。ただ、トランプ氏はIPEF不支持を表明しており、形骸化すれば中国の影響力が高まる恐れもある。
「不透明さを増している国際情勢の中で、東南アジアとの信頼関係を強化することは極めて重要だ」。首相は帰国を前にジャカルタ郊外の空港で記者団の取材に応じ、こう強調した。
首相は2月上旬に訪米し、トランプ氏と会談する方向で調整している。ロシアがウクライナに侵略し、中国が力による現状変更を試みる中、国際秩序の維持に向けて首相が果たすべき役割は大きい。