ニュース本文

東京五輪・パラリンピックを巡る談合事件で、30日の東京地裁判決は、業界の「ガリバー」である電通グループが大会組織委員会元幹部の意向に沿って加担したと認定した。世界的な注目が集まる五輪での業務受注を目指し、不正に利益を追求した姿勢を批判した。
思惑

午後1時半に始まった判決の言い渡しには、独占禁止法違反(不当な取引制限)に問われた同社の代表者として曽我有信・代表執行役副社長(59)がスーツ姿で出廷した。
元スポーツ局局長補の逸見晃治被告(57)とともに証言台の前に立ち、安永健次裁判長から「罰金3億円」と告げられると、小さくうなずき、弁護人の後方の席に移動。約30分間の判決理由の読み上げに目を閉じて耳を傾けた。
判決がまず強調したのは、電通の五輪における「存在の大きさ」だった。「圧倒的な最大手の広告会社」として、長年、日本オリンピック委員会のマーケティング専任代理店を務め、1998年長野冬季五輪や2002年のサッカー日韓W杯などでも実績をあげたと言及した。
組織委に職員を出向させた東京大会では、その運営に「大きな影響力があった」と指摘。組織委の大会運営局元次長(57)(有罪確定)が大会を円滑に進めるため、逸見被告らとともに、競技会場ごとに各社の受注希望をまとめた「一覧表」を完成させたと述べた。
判決は「大会を成功させたいとの思いがあったとしても、会社の利益、業績向上を図る思惑があったことは否定できない」と批判。最大手として組織委幹部の意向をくみ取り、他社にも影響を及ぼしうる立場だったとして、談合への関与は「非難を免れない」とした。
「一気通貫」
電通側は公判で、競争入札だったテスト大会の計画立案業務については談合を認めた。一方、その後に随意契約で受注したテスト大会の実施業務や本大会運営業務に関しては「本大会は競争入札で行うと元次長から聞いていた」などとして、談合を否定した。
だが、判決は「全ての業務を一気通貫のものと考えていた」とする元次長の供述や、こうした組織委の方針を他社の幹部が認識していたことを示す発言などを挙げ、元次長と緊密な電通側に方針が伝わっていないとは考えがたいと判断した。
各企業が受注予定の会場以外について営業活動を行っていない点も、組織委の方針を各社が共有していたことを裏付けていると指摘。三つの業務全てで談合が成立すると結論付けた。
談合の結果、総額約437億円に上る巨大事業で、公正かつ自由であるべき競争が阻害されたと批判。電通も60億円超の売り上げを得たとした。一方、入札をする受注予定企業を決めたのみで入札価格などの情報交換までは行っていないことから、「競争を制限する程度は強くない」とし、逸見被告に執行猶予を付けた。
電通は判決後、ウェブサイトで即座に控訴したと発表。「控訴審では当社の正当性を改めて主張していく」とのコメントを出した。
事件を巡り、発注者側の元次長は起訴事実を認めて有罪が確定。一方、受注者側で起訴された6社はいずれも全部または一部で談合を否認している。広告大手「博報堂」とイベント会社「セレスポ」は1審・東京地裁で有罪となり、控訴。残る3社は1審で公判中だ。