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[東京 27日] - 1月22、23日に開催された日銀金融政策決定会合は、金融政策の現状維持を賛成多数で決定した。昨年12月の前回会合で0.75%への追加利上げを決めて「0.5%の壁」を30年ぶりに突破したばかりであり、意外感はない。
23日に召集された通常国会の冒頭で高市早苗首相が衆議院解散に踏み切ったことも、緊急性のない政策変更を「政治中立」の観点から日銀が行わない理由になる。植田和男総裁は記者会見で、市場を大きく動かしかねない発言を自重していたようにも見えた。
当然のことながら、この会合に向けたマスコミ各社の事前の観測報道も、金融政策の現状維持が見込まれるということで、足並みが揃っていた。
そうした中で一つ、筆者が興味深く感じたのは、最新の「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で日銀が示す物価見通しについての観測報道の内容に、時系列で変化が見られたことである。
ブルームバーグは1月9日、最新の展望リポートにおけるCPIコア(生鮮食品を除く総合の消費者物価指数;前年度比)の見通しについて、「昨年末のガソリン税の旧暫定税率の廃止や今年1-3月使用分の電気・ガス料金の負担軽減策などが下押し要因となる」と指摘し、「日銀は下方修正が必要かどうかを検討するが、政策要因による一時的な問題とし、政策判断で重視する基調的な物価上昇率が緩やかに上昇している構図は変わらない」との関係者のコメントを報じた。
時事通信は同日の金融コラムで、「政府の物価高対策の影響もあり、1月の展望リポートでは、26年度の物価上昇率見通し(前年度比1.8%)が下方修正となる可能性もある」とした。
9日に出てきた上記の2つの観測報道は、26年度のCPIコア見通しについて、政府の物価高対策の効果が反映されることから下方修正が必要かどうかを検討する、あるいは下方修正となる可能性もある――としたわけである。
だが追加利上げを行いたい日銀からすれば、物価見通しの下方修正はなんとか回避したいというのが本音だろう。日銀が仮に、26年度のCPI見通しを前年度比プラス1.7%やプラス1.6%といった数字へ、政府の物価高対策の効果を素直に反映する形で下方修正してしまうと、早期の追加利上げに日銀は慎重なようだという誤ったメッセージが金融市場に伝わりかねない。
もう少し詳しく説明すると、エネルギー価格を押し下げる政府の物価高対策を主因に2月におそらく始まる、CPIコア前年同月比が2%を下回る時間帯はやや長くなりそうだと解釈できる見通しを日銀が提示すると、日銀が追加利上げに動きにくい時間帯もまた長くなると判断した市場参加者から円売りが強まりかねない。
債券など円金利市場には、毎月発表されるCPIコアの前年同月比が2%を下回っている時間帯には、「基調的な物価上昇率」や期待インフレ率の方は順調に2%に向かって上昇を続けていると区分けして説明しながら日銀が追加利上げに動くのはかなり難しいのではないかという見方が根強くある。
さらなる利上げに向けたテンションが市場で下がりやすくなることへの日銀の危惧が、最終的に物価見通しの上方修正につながったのではないか。筆者はそのようにみている。
日銀の考え方が陰に陽に伝わったのだろうか。月央以降に出てきた報道では、26年度のCPIコア見通しの修正動向に関する書きぶりが大きく変わった。
ロイターは16日、CPIコア見通しの修正動向を含め、日銀のタカ派寄り姿勢を伝える記事を配信した。そこには、「日銀の一部では、市場が想定する半年に1度というペースより早いタイミングでの利上げが必要になる可能性もあるとの声がでている」「衆院解散報道を受け、外為市場では円安が一段と進行。日銀は22―23日の金融政策決定会合で議論する展望リポートで2026年度の経済・物価見通しをともに引き上げる見通し」「政府の物価高対策は生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)の伸び率縮小要因だが、昨秋以降の円安が物価を押し上げる」と書かれていた。
この報道は、実質国内総生産(GDP)に加えてCPIコアも昨年10月の前回見通しから上方修正されそうだとした。それまでの各社の論調と大きく異なる内容だ。
また、日経電子版は同日、25年度と26年度のCPIコア見通しについて、「今回、大幅な修正を見込む声は出ていない。物価をめぐり、引き下げ方向、押し上げ方向と両方の要因が混在しているためだ」「政府の経済対策にはガソリン税の旧暫定税率廃止や電気・ガス代の支援が盛り込まれた。これらは26年度を中心に物価を下押しする。他方で成長率の上方修正は需給ギャップの改善を通じて物価を押し上げる」とした。
時事通信は同日、「物価上昇率見通し(同1.8%)については、政府の物価高対策が一定の下押し要因となるものの、賃上げや価格転嫁の広がり、円安進行による押し上げ圧力も強く、修正の必要性について議論する」と書くにとどめた。
その後、ブルームバーグは20日の記事で、CPIコア見通しは「26、27年度は上方修正含みとみられる」とした。
結局、23日に発表された展望リポートで、26年度のCPIコア見通しは前年度比プラス1.9%になり、昨年10月の同プラス1.8%から若干の上方修正になった。
さらに、参考として公表されているCPIの日銀版コア(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)の見通しは、25年度、26年度、27年度がいずれも上方修正された。日銀が重視する「基調的な物価上昇率」が徐々に上がってきていることをイメージさせる数字の「見せ方」である。
中央銀行が提示する先行きの物価見通しの数字、特に、目標である2%と対比して上下どちらにあるのかに注目し、市場参加者が思考を巡らせる状況は、ユーロ圏でしばしば見られる。
欧州中央銀行(ECB)は、日銀と同じ2%のインフレ目標を掲げており、四半期ごとに実質GDPと統合ベース消費者物価指数(HICP)の伸び率に関するスタッフ作成の見通しを公にしている。
昨年12月に発表された最新のユーロ圏経済見通しでは、最も先である28年(暦年)のHICP見通しが前年比プラス2.0%になり、目標と合致する数字になった。このあたりは、日銀の展望リポートで27年度のCPIコア見通しが前年度比プラス2.0%になっていることと重なり合う。
問題は、それまでの物価のパス(軌道)である。昨年12月のECB見通しは、26年が前年比プラス1.9%、27年が同+1.8%である。特殊要因も介在する話であり、目標である2%からの乖離はそう大きくないわけだが、利下げ局面を昨年終えたとみられるECBの「次の一手」は利上げではなく追加利下げだと考える向きの、根拠の一つになっている。
植田日銀総裁は23日の記者会見で、「ここからしばらくヘッドラインはインフレ率がはっきりと低下を続ける2(%)を下回っていく可能性が高い。これに対して基調的なインフレ率はゆっくりとですが、上がり続けていくというふうにみています。こうした中での金融政策運営ですけれども(中略)、基調的なインフレ率の動向により重きを置いて決定されていくということになると思いますし、そういう私どもの姿勢はずっと変わっておりません(後略)」と述べていた。
日銀は、CPIコアが近く前年同月比プラス1%台に鈍化する中でも、「基調的な物価上昇率」は上昇を続けているという、客観的には確認しづらいロジックを前面に出しながら、追加利上げのタイミングを模索していく構えである。
実際はどうなるか。日銀による今後の利上げの有無およびタイミングは、かなりの程度「為替相場の動向次第」だというのが筆者の見方である。
この先、1ドル=160円を超えて円安ドル高が一段と進行すれば、日銀の追加利上げ容認に政府は傾くだろうし、日銀としては早いタイミングで利上げに動きやすくなる。
逆に、日米通貨当局による今般の「協調レートチェック」が醸成したドル売り円買い協調介入への警戒感も寄与しつつ、円高ドル安が着実に進んでいく場合は、日銀による追加利上げの必要回数は減り、最終的には長期金利低下にも結びつくことになる。
編集:宗えりか
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*上野泰也氏は、経済・金融市場に関する情報を発信する「マーケットコンシェルジュ」の代表。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から25年6月までみずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。25年7月より現職。
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