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JR九州はすかさず事態の早期収拾に動きだした。当初「3年かかる」とされていた橋の架け替えについて、青柳俊彦社長は「来年夏をメドに復旧させる」と、7月31日に明言。渇水期の冬場以外にも工事ができる見通しが立ったためだという。

問題は費用だが、「まずは自分たちですべて直すことを考えている」(青柳社長)。自力で復旧費用を捻出できない赤字会社は、国や自治体から費用の一部を補助してもらうことがある。JR東日本(東日本旅客鉄道)やJR東海(東海旅客鉄道)のような黒字会社であっても、自治体の補助を得られる見通しが立ってから復旧に動きだすという例は少なくない。

黒字会社のJR九州は先に工事に着手し、後で自治体と費用負担について協議することを考えているのかもしれない。国が黒字会社にも補助金を出せるようにする法改正の動きもあり、実現すれば追い風になる。

いずれにせよ、補助金の裏付けなく工事を開始するという思い切った手を打った。これほど急ぐのは、久大本線が経営戦略上欠かせない路線と位置づけられているからにほかならない。

熊本地震と豪雨が絡み合う

「或る列車」は豪華な車両だけでなく車内サービスも人気の秘密(記者撮影)

集中豪雨から2日が経った7月8日、熊本地震の影響で豊肥本線での運行が中断されていた観光列車「あそぼーい!」が、別府・大分―阿蘇間で運転を再開した。あそぼーい!は本来、熊本と阿蘇エリアを結ぶ、ファミリー向けの観光列車。だが、豊肥本線・肥後大津―阿蘇間が現在も不通で、熊本から阿蘇への送客が困難に。そこでJR九州は大分側から阿蘇への観光ルートを構築したというわけだ。

阿蘇観光の鉄路による玄関口は熊本というのが一般的で、大分経由ではかなりの遠回りになる。それでも新ルートで運行するのは、地域経済に貢献する観光列車としての使命感からだ。

記念すべき新ルートによるあそぼーい!の1番列車出発に向け、JR九州は別府駅での出発セレモニーを準備していた。ただ、多くの大分県民が被災した豪雨から2日しか経っていないという状況を考慮して、別府駅でのセレモニーは中止された。熊本地震と豪雨の影響が複雑に絡み合う事態がここから見て取れる。

九州では毎年のように自然災害が発生している。観光列車の走るエリアは風光明媚な自然が魅力であるがゆえ、自然災害の影響を受けやすいことにあらためて気づかされる。JR九州の観光列車戦略は、ひとたび鉄路が被災するとそれまで蓄えてきた利益が吹き飛んでしまうリスクをはらむ。それでも、JR九州はこの土地で観光列車を走らせ続ける。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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