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さて、国鉄が分割民営化されたときの約束とはいえ、JR旅客会社のなかには貨物列車が走行することで不利益を被るところが現れた。代表例はJR北海道だ。自社の旅客運送事業が不振のうえ、JR貨物から得られる線路使用料が低廉であったこともあって線路の保守作業が十分に行われず、2013年9月19日には函館線の大沼駅構内で貨物列車の脱線事故を引き起こしてしまった。JR北海道の経営再建に当たり、JR北海道再生推進会議(議長・宮原耕治日本郵船相談役)は、貨物列車の運行がJR北海道の経営上の負担になっているとして改善を求めている。

JR旅客会社のうち、2014年度に鉄道事業で営業損失を計上したJR北海道、JR四国、JR九州のJR三島会社3社の収支は貨物調整金を導入した線路使用料でどのように変わるのかを試算してみよう。

第三セクター鉄道各社の線路使用料収入の比較で得られた3.3倍という倍率を用いると、3社合わせて2014年度に21億3665万円であった線路使用料収入は、49億1430万円増の70億5095万円となると考えられる。特にJR北海道の場合、鉄道事業の営業損失がまだ377億円余り残るとはいえ、約37億円もの収支改善効果が見込まれるので、JR貨物に対して線路使用料収入の見直しを早急に求めるかもしれない。

「調整金」JR貨物は負担できるか

もともとJR貨物が支払う線路使用料については、国鉄時代の1983年に発足し、国鉄分割民営化を提言した国鉄再建監理委員会と運輸省(当時)との間で意見が食い違っていた。国鉄再建監理委員会は相場どおり、つまり車両キロに基づく算出方法を主張したものの、JR貨物の経営基盤が弱いことから運輸省はアボイダブルコストルールの適用を求めており、結局は運輸省の主張が認められた形となったのだ。

国鉄の分割民営化後30年間のJR貨物の経営状態はよいときばかりではなく、割安な線路使用料が功を奏した機会も多々存在した。だが、今後同社が株式の公開を目指すとなると話は変わる。保護を受けていた側が利益を上げ、低廉な線路使用料に甘んじていたJR旅客会社の経営が厳しくなるようでは何らかの対策を講じなくてはならない。

JR旅客会社向けの線路使用料に対しても貨物調整金の導入が望ましいが、原資をどこから確保するかという問題が生じる。となると、JR貨物が自前で支払うほかない。JR三島会社だけでも49億円余りという金額を、はたして同社は負担できるであろうか。

梅原 淳 鉄道ジャーナリスト

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うめはら じゅん / Jun Umehara

1965年生まれ。三井銀行(現・三井住友銀行)、月刊『鉄道ファン』編集部などを経て、2000年に独立。著書多数。

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