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実際、金融庁も仮想通貨交換業者の登録を公表する際に「仮想通貨の価格が急落したり、突然無価値になってしまうなど、損をする可能性があります」と注意を呼びかけた。まっとうなICOでも、価値がゼロになる可能性が否定されないなら、一般の人にとって詐欺か詐欺でないかの区別はつきにくい。ICOはよこしまな事業者が活動しやすい分野になっているのが実情だ。

「問題が出てくれば対応するが、技術の変化が速く、追いかけるのが大変」と金融庁関係者は言う。金融庁が規制に前のめりにならない背景には、新たな産業の育成として仮想通貨技術などフィンテックの支援を明確にしていることもある。「育成の観点から、規制をしすぎてはいけない」(金融庁関係者)。

「まだ小規模なものにすぎない」と放置してよいか

「あのときと似ている」と言うのは、あるメガバンク幹部だ。振り返れば、リーマンショックのときも、デリバティブ(金融派生商品)というイノベーションがもてはやされて、価格算定根拠の不確かなCDO(債務担保証券)に世界中の金融機関や機関投資家が飛びつき、大惨事となった。ブームのさなかはよいが、ブームが終焉を迎えるとCDOの価格がつかなくなって投げ売りが続出したことが危機の発端だった。

金融システム全体のリスクを監視する日本銀行や金融庁から聞こえるのは、「仮想通貨の時価総額はまだたかだか10兆円程度」という声だ。金融資産全体の規模(日本の個人金融資産だけで約1800兆円、世界では2京円を超えるといわれる)から見れば微々たるもの。仮想通貨の保有者も投機家やIT愛好家に限定され、CDOのときのように金融業界に広がっているわけではない。

ICOで起きることはしょせん愛好家の損失にすぎない――。そうした当局の姿勢が強ければ強いほど、ICOブームの被害は広がりかねない。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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