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盛和塾の勉強会で熱心に聞き入る中国人たち(写真:筆者撮影)

中国人の経営者というと、とにかく元気で、脂ぎっていて、早口で、アグレッシブで強靱な体力の持ち主。そんなイメージを持つ日本人が多いかもしれないが、多くの経営者たちは、ただ前に向かって突き進んでも、以前と同じような経済成長は望めないこと。また、お金儲けという目的だけでは会社は立ちゆかなくなる、ということに薄々気づき始めている。

中国人=お金の亡者、というイメージを持っている人もいるかもしれないが、それは日本のマスコミによって作り上げられた面もあり、必ずしもそんなことはない。中国=反日という一方的なレッテル貼りをする傾向もあるが、「彼が日本人だから」尊敬しない、という理由は、少なくとも私が知り合った中国人たちの間にはほとんどない。

低成長時代に入る中で、新たなビジネスモデルへの脱皮に苦戦し、経営方針で悩んでいる経営者たちは「心の指針」を探している。そんな中で注目されているのが尊敬する稲盛氏の盛和塾であり、彼の著書なのだ。

人材教育を重視するべき

広州から車で約3時間、同じ広東省東莞市にある日系企業、技研新陽を訪ねた。同じように稲盛氏を信奉し、深?盛和塾を立ち上げた経営者、郭文英氏に会うためだ。50代を迎えたばかりの郭氏は小柄で童顔の女性だが、1万人以上の社員を束ねている。日系といっても、社員の99%以上は中国人だ。

叩き上げで社長になった郭氏だが、20?40代の頃、ちょうど広東省は高成長の時代で、業績は上がり続けた。しかし、リーマンショックを契機に情勢は変化した。経営者として苦悩した郭氏は人材教育を重視するべきだと考えるようになった。同社は基板などのOEM生産が主軸だが、会社にとっていちばん大事なのは人材だと気づいたのだ。

大学時代に読んだ松下幸之助氏の著書にある「ものづくりは人づくり」という言葉を思い出し、入社してくる17?18歳の若い社員に対し、技能研修だけでなく、あいさつや礼儀作法も一から教えた。

いつも頭にあるのは「おカネも大事だけれど、おカネ以外に社員の心を動かすモチベーションがなければ、彼らはやる気を起こさないし、ついてこない。人は物事を学ぶことによって成長する」という信念だ。

そんなとき、盛和塾と出合った。2015年に上海で盛和塾の報告会に参加する機会がたまたまあり、経営者たちの体験談を聞いて感動したのだ。自分も稲盛氏の経営哲学を勉強し、実践してみたいという思いが募った。

「塾に参加したり、著書を読んでいちばん強く感じたのは、おこがましいのですが、自分が20年以上、この会社で実践してきたことは正しかったのだ、と確認できたことでした。これはとても大きな自信になり、感動しました」

「稲盛先生の教えは、四川省で苦労して育ててくれた母の教えと驚くほどぴったりと重なるものでした。母は文字が読めず無学でしたが、人としてどう誠実に生きるべきか、稲盛先生と同じことを考え、私たち子どもに愛情深く教えてくれていたからです」

中国では1960年代後半に起きた文化大革命によって、儒教の教えが全面的に否定された時期があった。その後、経済が右肩上がりになったときには、人々はお金儲けに忙しく、生きることに精いっぱいで、倫理観や道徳をないがしろにしてきた人も多かった。その結果、列に並ばない、人をだます、悪いことをしても謝らない、誰も信じない人が増え、殺伐とした時代が続いた。


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