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私は、習近平が唱える「中国の特色ある大国外交」も、結局のところ、この問題をいかに処理するかで、中国が真に中国の伝統的価値観を体現した世界大国としての外交ができるかどうかが決まると考えてきた。党大会への報告の中で「核心的利益」に言及しなかった事実は、習近平が外交上、その取り扱いが著しく難しい「核心的利益」の概念を脇において、外交の立て直しを図った可能性も出てきたのだ。

だからといって中国がおとなしい国になるなどと言っているのではない。国力と影響力の増大にともない、ますます自分の意見ははっきりと言い、行動するようになるだろう。しかしその発言や行動は、彼らが主張する価値観や理念に結び付かないと言行不一致になる。言葉と行いが一致するべきだと彼らも考えるだろう。

儒学の重要な書物『中庸』に、「言(こと)は行いを顧み、行いは言を顧みる」という一節がある(13章)。言行一致は中国の「君子の道」でもあるのだ。

中国外交の反省

なぜこのような軌道修正が図られているのか。2017年1月17日の世界経済フォーラム年次総会における習近平の講演に、中国の意図を読み解くヒントがある。

習近平はこの講演で、「経済のグローバル化は社会生産力の発展の客観的なニーズであり、科学技術進歩の必然的結果である」と述べ、経済のグローバル化を全面的に肯定した。それが経済の相互依存をさらに深めることを十分承知したうえでの話だ。またドナルド・トランプ大統領の政策を念頭に置いて、自由貿易を強調するものでもあった。

この主張は開かれた世界を前提としており、自由で公平なモノ、カネ、ヒトおよび情報の流れを尊重しないと実現不可能である。つまり経済の自由主義という理念を実質、受け入れたといえる。もちろんこれらの理念を中国がわれわれと同じように理解しているとは思わない。しかし、少なくとも「同じ土俵」には上がったといってよい。

習近平は翌日のジュネーブの国連本部における講演では、さらにいくつかの観点を明確にしている。

まず「100年余りの歴史を振り返れば、全人類の共通の願いとは、平和と発展であった」と総括する。勝者の歴史観に立ち、もう歴史に対する恨み節は聞こえてこない。そして「平和」「発展」および「文明」を強く意識した構成となっている。

次に「公正で合理的な国際秩序の確立は人類がひたすら追求する目標だった」と述べ、「主権の平等」を語る。そして「国家の大小、強弱、貧富に関係なく、主権と尊厳は必ず尊重されるべきで、内政干渉は許されず、誰もが自主的に社会制度と発展の道を選択する権利を持っている」と述べる。

これは?小平の語った言葉ではないか。そして「各国が政策決定に平等に参与すること」「各国の権利と平等、機会均等、ルールの平等」の推進を求める。これらはすべて正しい。つまり国連憲章に代表される政治における自由民主主義を是認したのだ。


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