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――今回の品質問題では「特別採用(特採=トクサイ)」という商習慣がクローズアップされました。

特採は昔からあり、海外メーカーとの取引にもある。特に契約には明記されない。

特採が広がったのは、顧客にもメリットがあるからだ。もともと顧客の品質要求は厳しく、すべてがその水準を満たさなくていい面もある。100点でなくてはならない素材や部品もあるが、そうでないものは「98点でいいからすぐ、安く出して」などという条件で出荷してもらう。

背景には歩留まりの問題がある。本当に高品質な素材・部品の場合、100を作って歩留まりが70?80というケースはザラにある。つまり、20?30は捨てている。難しい製品の歩留まりを上げるのは本当に難しいもの。それでも生産現場はなんとか踏みとどまっている。顧客もそれは理解しているので、特採制度を使って対応し、少しずつでも歩留まりの向上につなげてもらう。

ただ、それは顧客の了解が大前提だ。顧客に無断で要求品質を満たさない製品を出していいわけではない。ある企業の生産担当役員は「うちでも(問題になった企業と)同じようなことはあるが、ぎりぎりで踏みとどまっている」と言っていた。そうした中だからこそ、技術的なブレークスルーが生まれているともいえる。

「過剰品質」は悪くない

――今回の問題は「過剰品質のワナ」にも見えます。

遠藤功(えんどう いさお)/ローランド・ベルガー日本法人会長。早稲田大学商学部卒業、米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。2016年3月、13年間教鞭を執った早稲田大学ビジネススクール教授を退任。著書に『現場力を鍛える』『見える化』『新幹線お掃除の天使たち』などベストセラー多数(撮影:編集部)

確かに過剰品質という面はあるかもしれない。しかしそれに挑戦してきたからこそ、日本の製造業は成長できた。今後も中国や韓国メーカーが作れないものを作る。おそらくその戦略は間違っていない。

これまでは企業の垣根を超えて、オールジャパンで世界最高品質を追求してきた。そこをもう一度担保しないと、日本のもの作りの根底が崩れてしまう。顧客との再交渉をきめ細かく行うなど、一部で契約内容を見直しつつ、あらためて品質第一に回帰しなければならない。

――今後はどんな対応が必要でしょうか。

悪者探しのようなモグラたたきをしても意味がない。個社だけに矮小化せずに、日本のものづくり全体の問題として認識し、業界の垣根を越えて取り組むべきだ。

日本のものづくりが今後どうやって飯を食うのか、大局的に議論する必要がある。これまで国内の設備投資は抑制され、製造業の空洞化が進んできた。しかしある程度国内でものを作らないと、人が育たないし、技術も進歩しない。

企業は内部留保として貯め込むばかりでなく、現場への投資を積極化する局面に差しかかっている。そして経営者自らが、主体的に生産現場の立て直しに取り組むことが求められるだろう。

並木 厚憲 東洋経済 記者

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なみき あつのり / Atsunori Namiki

これまでに小売り・サービス、自動車、銀行などの業界を担当。テーマとして地方問題やインフラ老朽化問題に関心がある。『週刊東洋経済』編集部を経て、2016年10月よりニュース編集部編集長。

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