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今や国内に1億人規模の会員基盤を持つ楽天。独自のポイントプログラム「楽天スーパーポイント」の累計発行額は1兆円に達している。最近ではネット上(オンライン)だけでなく、マクドナルド、ミスタードーナツなどの外食チェーン、大丸、松坂屋、ツルハドラッグなどの流通チェーンといった、オフラインの店舗でポイントの付与や利用を広げている。

マクドナルドなど全国的な外食・流通チェーンでの楽天ポイント利用を促している(撮影:梅谷秀司)

ユーザーの購買データを活用する一つの道として、楽天が目下力を注いでいるのが広告事業だ。

ネット広告やテレビCMの視聴データと、ECや店頭での購買データをすべて会員IDに紐付けて、広告効果をより正確に把握・分析することを売りにする。広告のターゲティング精度が上がることで、広告主とユーザー両方の利便性を高めたい考えだ。7月に設立した電通との合弁会社で挑む、新領域の事業である。

契約スマホで自社サービスへ誘導狙う

こうしたユーザーのデータを集める”入り口”といえるのが、やはりスマートフォンだ。楽天市場においては、すでに取扱高の6割がモバイル端末経由になっている。加えて、決済サービスの「楽天ペイ」、メッセンジャーアプリの「Viber(バイバー)」などの自社アプリもスマホでの利用が基本だ。

今後展開予定の通信事業と契約するスマホにこれらのアプリをインストールしておけば、それだけでユーザーを増やせる。通信プランの作り方や楽天スーパーポイントの付与方法を工夫して、各サービスの利用促進を図ることもできそうだ。

現在の楽天モバイルのような価格での攻勢をどこまでかけられるか(撮影:田所千代美)

楽天は2014年から、NTTドコモに接続料を支払って回線を借り、格安スマホ事業「楽天モバイル」を運営してきた。ここで得た知見をフルに生かしつつ、自前の回線で事業展開することで経営効率を上げる狙いがある。現時点で想定するサービスの詳細は明かされていないが、「より低廉で利用しやすい携帯電話の料金を実現し、社会全体の便益の最大化を目指す」(会社側)と自信満々だ。

どこまでも夢が広がりそうな挑戦ではあるが、やはり不安もある。既存の大手3社も利用者を奪われまいと、値下げやサービス改善など対策を講じてくるはず。楽天が第4の携帯キャリアとして無事にスタートを切れたとしても、思い通りに顧客基盤を拡大できるかは未知数だ。

1つの事業で最大6000億円という投資は、楽天にとって過去最大規模のものとみられる。その負担の大きさからか、14日の同社の株価は前日比で5%近く下落した。真にユーザーの支持を得る通信キャリアサービスを実現できるか。見極めるにはまだ時間がかかりそうだ。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

?1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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