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丸山:そう。それで今も東京にいるんだけど、東京生まれの人間は激しい上昇志向がないのよ。

黒川:僕も東京の上野生まれですが、わかるような気がします。

丸山:地方から出てきた人は、やっぱり東京という大都会に負けたくないっていうのがあるからね。もちろん、人によって濃淡はあるけど、ある程度の上昇志向がないと大都会に負けるじゃない。

黒川:戻りたくないというのもあるでしょうしね。

丸山:そう、戻りたくないってのもあるよな。その点、東京生まれはノホホンとしてるよね。学生時代もそうだし、社会人になってからも、しばらくの間は親元から通うわけだから住・食は確保していて、さほど経済的に苦しくないっていうのがあるんだろうな。そんなだから自分で作ったスタイルを崩さないんだよ。そういった上昇志向がないってことは基本的には現状維持ってことだからね。

黒川:あぁ?、同意できます。

生まれ育った町内を大事にしないでどうする?

丸山:ところが、現状維持のまんまじゃダメだ、人とは違うことをしなきゃいけないっていう思いも一方であるわけ。その部分を極めて強く意識するっていうのはあるよね。周りと同じじゃ面白くねえよっていうのが……。多分、そういうふうに思うか思わないかってのが東京人の分かれ目だよね。

黒川:そこに気がつくか、気がつかないかっていうのはありますよね。

丸山:そのまんまでいても、それはそれなりに幸せなわけだからね。でも、それはちょっと違うなって思うことも……俺の場合はそうだったよね。まあ、俺が同じ店に通い切るっていうのは単純に言えば……江戸時代とか明治時代の部分でいうと町内で消費するっていうことだよな。

新しい店を探して、そういったところにどんどん行くってのはどうよというか、町内で生まれ育ったんだから町内を大事にしないでどうするんだっていうのがすごい強いのよ。そういうのが、心のどっかにあるからね。だから、同じ店に通うわけだけど、そうするとね。地方から来たヤツらが俺のことをバカにするんだよ(笑)。

黒川:「また、そこに行ってるんですか」とか「こっちのほうがいいですよ」みたいなことを言う人はいますよね。ただ、僕はそう言いたくなる気持ちもわかるんですよ。

丸山:多分、この部分をものすごく丁寧に説明したのが橋本治さんの『知性の?覆(てんぷく)―日本人がバカになってしまう構造』(朝日新書)。大好きな作家なんだけど、あの人も東京生まれなんだよ。

そういえば、東京生まれの人でスタイリスト(テレビ、雑誌などの出演者のファッションなどを準備してコーディネートする仕事)を職業にしている人はいない……っていうのが昔からの俺の持論でね。スタイリストを職業にしている人っていうのは、東京以外の出身でさ、いささか野暮ったい人たちで、かっこよくなりたい人たちが目指すような職業なんじゃないかと思うんだ。

黒川:キビしいことを言いますね(笑)。でも、よくわかりますよ。


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