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法人減税を求める理屈にも欠陥がある。トランプ氏と同じく、ドイツの政治家やロビー団体は、企業が国際競争力を維持していくためには減税が必要だと主張している。しかし、ドイツの輸出企業に競争力があることは明白で、1990年代以降、その世界シェアはおおむね拡大を続けてきた。企業収益も歴史的高水準にある。ドイツの法人税は他国との比較では高いが、税率は2000年代に大きく引き下げられている。

高齢化が急速に進んでいる

現在検討されている減税がもたらす経済押し上げ効果は、トランプ減税同様、極めて限定的なものでしかない。それでいて、長期的には財政を大きく圧迫することになるのだ。確かにドイツはGDP(国内総生産)比で約1.3%もの財政黒字を誇っているが、これは大体が幸運によるものであり、優れた政策によるものではない。昨今のような超低金利に加え良好な雇用環境が整わなければ、連邦政府の財政は赤字だったろう。

しかも、ドイツは高齢化している。つまり、これからの10年で公的年金や医療費負担が急拡大するということだ。こうした公的支出を賄うには、大幅増税と歳出削減のどちらか、あるいは両方が必要になってくる。CDUとSPDの大連立政権が提案しているのとは、まさに真逆の政策である。

減税や歳出拡大をいっさい検討すべきではない、と言っているのではない。そうではなくて、将来世代にツケを回さずに、減税や歳出拡大の効果を最大化するためには、政策を根本から設計し直す必要があると言っているのである。

ドイツ経済は力強く成長している。だが、分厚い財政黒字があるからといって、それを経済全体に恩恵をもたらさない減税や公共支出に浪費してよいという理屈にはならない。

むしろ、その反対だ。財政黒字によってドイツは長期的な課題に対処する恰好のチャンスを与えられている。メルケル氏が率いる次の政府は、その好機を無駄にしてはならない。

マルセル・フラッシャー ドイツ経済研究所所長

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マルセル・フラッシャー / Marcel Fratzscher

ECB(欧州中央銀行)国際政策分析部門の元トップ。独フンボルト大学教授。専門はマクロ経済と金融

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