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――1点目と2点目は公認会計士の倫理規則第3条にかかわる問題ですね。同条では、重要な虚偽又は誤解させたり、業務上必要な注意を怠ったり、必要な情報を省略したり曖昧にしたりすることで誤解させるような報告や開示に、会計士は関与してはいけない、と書いてあります。

八田:間違いを探すのではなく、会社が作成した計算書類が正しいということを立証することこそが監査人の業務だ。財務報告にかかわる内部統制が機能していないと結論づけているということは、そもそも監査の前提が崩れている。その状況で監査を引き受けること自体が間違っている。

意見不表明か、辞任すべきだった。にもかかわらず、今期も第3四半期まで引き続き前期以前の不備を指摘しながら限定付意見を表明していて監査を降りていない。なぜそれが倫理規定違反にならないのか、説明すべきだ。

売上高の1割で「重要性なし」の不思議

――日本公認会計士協会のホームページには、監査意見の種類を説明したページがあり、限定付適正意見については、「一部に不適切な事項はあるが、それが財務諸表全体に対してそれほど重要性がないと考えられる場合には、その不適切な事項を記載して、会社の財務状況は『その事項を除き、すべての重要な点において適正に表示している』と監査報告書に記載する」とあります。あらたの監査報告書にも限定付適正意見の根拠が2000字程度使って書かれています。

八田進二(はった しんじ)/青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授。1949年生まれ。慶応義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(プロフェッショナル会計学)。日本監査研究学会会長・日本内部統制研究学会会長・金融庁企業会計審議会委員(内部統制部会長)等を歴任

八田:東芝とあらたは6522億円の減損処理を計上すべき決算期が2016年3月期か2017年3月期かで対立した。6522億円といえば東芝の売上高の1割に匹敵する。それが財務諸表全体に対して重要性がないわけがない。

当然、重要性がないと判断した理由を説明すべきだ。しかもあらたは「6522億円のうちの相当程度ないしすべての金額」としていて、金額を特定していない。

除外事項については、その事実、理由および財務諸表に対する影響額を特定することではじめて、投資家がその額と公表されている財務諸表を見比べて、利益がどのくらい変わるのか判断できる。これでは説明責任を果たしたフリをしただけだと見られても仕方がない。

――あらたが第3四半期になって突如、減損処理について前期にやっておくべきだったと言いだしたようですので、東芝側があらたに対して不信感を抱いたとしても不思議はないように思います。

八田:現行の日本の制度では日本の本社の監査人が、海外子会社分も含め、主たる監査人の立場において全責任を負うことになっているが、海外子会社の監査は現地の提携先に任せきりになっているのが現状。問題になった米国の子会社・ウエスチングハウスの監査を担当していた会計事務所は、同じPwCグループとはいえ資本関係はなく、他の監査人の立場にあって単なる業務委託先でしかない。現地の事務所との意思疎通が希薄だった可能性は高い。

久保利:親会社が子会社をグリップしていれば違ったのではないか。子会社の監査の依頼主は現地子会社なのだから、現地事務所は現地子会社に対し当然守秘義務を負っているはず。東芝に限らず親会社自身が子会社をグリップしていればこそ、親会社の監査人も現地監査事務所との連携も図れるのではないか。


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