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確かに、トランプ米大統領がわめき散らしたり、はったりをかましたりしたからといって、米国製造業の雇用が目立って回復するわけではない。それでも米国の製造業には規模を拡大する力がある。雇用ではなく、生産高という意味で、だ。

ハイテク化された現代の工場は、かつてとは比べものにならないほど少ない人数で、はるかに多くのモノを作り出すことができる。しかも、ロボットやAIが変えつつあるのは製造業にとどまらない。機械化の波はサービス業をものみ込みつつあるからだ。医者や弁護士、投資顧問がロボットになる未来が語られたりしているが、これらは氷山の一角でしかない。

最先端技術を自ら生み出す力はない

もちろん、中国が長足の発展を遂げた事実は幻想ではないし、巨大な人口のおかげだけで、それが可能になったわけでもない。今日に至るまでの中国の高成長は、先進国技術の模倣、および投資が牽引役となってきた面が大きい。確かに、中国のモバイル通信技術はすでに5G(第5世代)に突入しつつあるし、他国にサイバー攻撃を仕掛ける能力は米国に匹敵する。

ただ、最先端技術に遅れずについていくことと、最先端技術を自ら生み出すことは違う。中国の経済成長の大部分はいまだに西洋の技術を取り入れることで成り立っており、しかも、知的財産権の侵害が伴うケースも少なくない。

中国が世界経済の覇権を握るのは既定路線だなどと、とてもいえるような状況ではないのだ。

もちろん、米国も大きな問題に直面してはいる。たとえば、格差が過度に拡大するのを防ぎつつ、技術革新によるダイナミックな経済成長を維持していく方策を米国は見つけ出す必要がある。仮に米国がしくじれば、高度にデジタル化された未来の経済において覇者となるのは、中国かもしれない。

だが、世界最大の人口を擁しているからといって、それだけで超大国になれるわけではない。むしろ反対だ。覇権争いのルールは、AI時代の到来によって根底から覆る可能性があるのだから。

ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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Kenneth Rogoff

1953年生まれ。1980年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。1999年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001〜03年にIMFのチーフエコノミストも務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

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