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油圧や空気圧などの動力で強制的に車体を傾けようという技術開発は国内外でいろいろ試されており、国内では小田急電鉄の「油圧車体傾斜」や「空気ばね車体傾斜」実験が有名ではあるが、当時の技術では残念ながら実用化には至らなかった。

曲線の位置や速度はどのくらいか、向きと長さと半径はどのくらいであるかといった地点情報と車体を傾ける最適角度や方向、タイミングといった情報を基に瞬時に計算できる制御装置の開発がカギとなるが、近年は計算能力やバックアップ機能、加速度センサーや信号回路のノイズ性などの性能向上で安定して構築できるようになっている。

1970年代には国鉄591系試験電車が試作されて遠心力による車体傾斜を目指した。車体重心を下げ、遠心力が車体下部に働いて外側に引っ張り出すことで車体が内傾するように台車と車体間に「コロ」の役割をする支持装置がある。これが「自然振り子」と呼ばれるものであり、遠心力が働いたらそれを利用して傾くという基本原理に基づいている。

床下が相対的に車体上部より重くなるように車体はアルミ製にして極力軽量化し、空調機器は屋根上ではなく床下に搭載した。もともと床下エンジンが重いディーゼルカーは振り子構成上有利ともいわれている。

「振り遅れ」を問題視し、「制御振り子式」として改善

しかし、自然の遠心力を用いるために、曲線に進入してから傾く。その「振り遅れ」が問題とされ、この改善のために事前に地点を検知してその速度に合ったタイミングで車体を曲線手前から傾け始める小型の空気アクチュエーターが取り付けられ、「制御振り子式」として改善されJR四国で実用化された。

この「制御振り子式」は、全JRや第三セクター鉄道にも採用される大ヒットとなっただけでなく、日本と同じ狭軌ゲージのオーストラリア・クイーンズランド州鉄道や台湾鉄路にも導入されて大幅な高速化を実現した日本の誇るべき国際的鉄道技術でもある。

曲線の少ない欧州で開発されたボルスタレス空気ばねだが、この曲線外側を膨らませて車体を傾ける簡易な車体傾斜方式が日本で開発された。過去に日本ではアメリカのバス用空気ばねを参考として旧国鉄・鉄道技術研究所の松平精博士や国内メーカーが空気ばね台車開発を行った。

高さ調整弁で左右の空気ばねの高さを一定に保ち、乗客や搭載重量の変化に対しても空気圧の調整でつねに一定になるように保たれる。その高さ調整機能を片側だけ利用して空気だけで簡単に傾斜できる空気ばね車体傾斜の開発で、保守に手間のかかる高価な振り子梁はもう不要であるとして注目されることになる。

トンネルを抜ける東海道新幹線(写真:T2 / PIXTA)

急曲線がなく車体傾斜は不要とされた新幹線においても、他線区よりは曲線が多い東海道新幹線では速度向上のためにこのシステムが活用されている。

空気圧で簡易に車体を傾斜する方式は新幹線のように曲線が多くない線区には大変マッチするのだが、その他の事例ではどうなのだろうか。曲線の多い在来線区間におけるたび重なる車体傾斜は、新幹線とはまったく違う困難を伴う。車体が軽量化されたといっても、それでもトン単位であり決して軽くはない。手動やフットポンプでタイヤに空気を入れるのが大変なように、車体の片側をわずかでも持ち上げるためには大量の圧縮空気が短時間に必要となる。


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