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「お給料をもらう仕事をしていない」という表現について、あえてこの言い方をしますと書かれていることから、相談者さんは家事・育児分担をめぐる議論についての知識は十分にあるのだと思います。ただ、重要なことなので、夫婦関係の問題を論じる際に前提として押さえておくべきポイントを解説しておきます。

家事労働が社会的に低く評価されていることを批判する「家事ハラ」、あるいは、母親だけが一人で子育てするキツイ状況を表現した「ワンオペ育児」など、近年、家事や育児をめぐっては、女性が背負ってきた負担を問題視する言葉が立て続けに流行しています。

相談者さんのご家庭のように、サラリーマンと専業主婦の組み合わせの場合、妻が無償で家事や育児をしてくれるから、夫は有償の仕事に専念することができます。一見すると、相補的な関係のように見えますが、会社員の夫には勤務中の休憩時間だけではなく、休日も用意されているのに、家事・育児はつねに必要な労働ですから、専業主婦の妻は365日休みなしです。妻の側に不満がたまるのは当然でしょう。

相手からすれば「不十分」なことはよくある

自分はやっているつもりでも、相手からすれば不十分に感じるというのはよくあることです。この機会に、改めて具体的にどのような家事・育児に、どれだけの時間を割いているのかをチェックしてみてください。

それでは、二世帯住宅で暮らす相談者さんの事例に合わせて考えていきます。40歳ぐらいの世代であれば、子どもの頃には、「家族」と言えば祖父母とは同居しない「核家族」というとらえ方がすでに主流になっていました。相談者さんのお宅もそうだったかもしれません。

『サザエさん』の家庭では違和感なく三世代同居が実現していますが、その家族像がとっくに「時代遅れ」なのは明らかです。今日では、一緒に暮らしていて違和感がない「家族」の範囲は、基本的に父母とその子どもに縮小しています。

そのため、同居しているとはいえ、自分の「家族」の問題に、よその「家族」が首を突っ込んでくる感覚があるはずです。当然、いい気がしないでしょう。加えて、血縁者が「結託」して自分一人を責めてくると感じているのであれば、なおさら理不尽だと思ってしまうはずです。

加えて、「娘がシングルマザーでかわいそうだ」と言ってくる義父母のお二人に対しては、「なんのために二世帯同居をしているんだ」と思ったかもしれません。育児に注力している相談者さんであればおわかりのことと思いますが、実際、子育ては単純に手が多ければ多いほど助かります。相談者さんが奥様のご両親と同居している経緯はわかりませんが、子育てに協力してもらうために同居している側面もあるはずです。

議論を整理するためには、社会学者のジグムント・バウマンによる自由と安心の関係についての鋭い指摘が参考になります。

「安心の増進はつねに自由の犠牲を求めるし、自由は安心を犠牲にすることによってしか拡張されない。しかし自由のない安心は奴隷制に等しい。一方で、安心のない自由は見捨てられて途方にくれることに等しい」(『コミュニティ』)。

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確かに、自分の「家族」の問題に口出しされるのは気に食わないかもしれません。しかし、子育ての担い手が増えるというメリットは享受して、干渉されるというデメリットだけを回避するのは無理なのです。不自由と引き換えに安心が提供されていることを、相談者さんは理解する必要があります。


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