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本書でフリードマンが目をつけるのは、「加速化」だ。世界はいま信じがたいスピードで変化している。その速さは私たちの思考や制度が追いつかないほどだ。フリードマンによれば、その節目となった歴史的な年は2007年だったという。

いま振り返ると、実は『フラット化する世界』には重要な要素が欠けていたことがわかる。この本が発表された2005年当時は、まだiPhoneもFacebookも存在しなかった。ツイッターは鳥のさえずりを意味する言葉で、クラウドは空に浮かぶものでしかなかった。「ビッグデータはラッパーにぴったりの名前でSkypeは普通の人が見ればタイプミス」といった述懐にクスリと笑いながら、深くうなずく人は多いだろう。これらのテクノロジーやアイデアはすべて2007年前後に私たちの前に現れたものだ。

フリードマンはこの年以降を「加速の時代」と位置付け、世界がいかに劇的に変化してきたかを描き出す。本書によれば、加速化の原動力となっているのは、「ムーアの法則」であり、クラウド・コンピューティングであり、地球環境の変化の3つだ。

約2年ごとに半導体の集積度が2倍になる(つまり幾何級数的に性能が高まっていく)「ムーアの法則」やクラウドによって、人類の暮らしは大きく変わった。これらのテクノロジーは、昨日までは不可能だったようなことを、きょうには可能にしてしまうほどの凄まじいスピードで進化している。おかげで私たちはまるでデジタルのフローの渦に巻き込まれた木の葉のようだ。目まぐるしく変わる景色はたしかに刺激的だが、その代わりどこに連れて行かれるのかは誰にもわからない。

世界の加速化と大いに関係している地球環境の変化

ただ、このあたりの話題まであれば、よく知っているという人も多いだろう。フリードマン流の切り口は、この同じまな板の上に地球環境も並べて見せるところだ。

フリードマンによれば、地球環境の変化も世界の加速化とおおいに関係しているという。近年、一部の地球学者たちが「人新世(アントロポセン)」という時代区分を提唱している。プラスチックやコンクリートのような人類が生み出した堆積物で地表が覆われた現代は、これまでの完新世とは区分して定義すべきではないかというのだ。

爆発的な人口増加がもたらすインパクトは、まさにアントロポセンの大きな課題である。テクノロジーによっていとも簡単に個人が世界を相手にビジネスが出来るようになり、今後数十億単位の貧しい人々がミドルクラスの仲間入りを果たせば、これまで以上に環境への負荷がかかるようになるのは目に見えている。もちろんだからといって彼らが快適な消費生活を望むのを阻むことは出来ない。これは彼らの当然の権利であるし、貧困層にとどまったままでは難民化などさまざまなリスクにさらされるからだ。


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