ニュース本文


だが米欧の長期金利や政府の財政政策に依存している現在の金融政策のフレームワークだけでは、今後のインフレ目標へのコミットメントがさらに揺らぎかねない。そして、極めてあいまいな「金融緩和の弊害」が重視され、さらにインフレ目標そのものがあいまいになり早期利上げに前のめりになる、などのシナリオが懸念される。

一方、今回会合後に公表された「主な意見」の中には、「現在の政策の要はコミットメントにある。これを強化する手段がないか、さらなる研究と議論が望ましい」「物価安定の目標の達成に向けたリスク要因が顕在化し得る場合、『共同声明』の理念に則って政府と日本銀行が連携し、具体的な行動を起こすことを検討してもよいのではないか」など、筆者の問題意識に沿う意見も審議委員から発せられている。決定会合参加者の間での、意見の相違は大きいのだろう。仮に、上記のような意見が今後強まれば、円高が再来する可能性は低下するかもしれない。いずれにしても、現在抱いている筆者の懸念が杞憂であることを期待したい。

2019年度の消費増税の影響は14年ほどではない可能性

ところで、先般の日本銀行の政策決定会合では、2019年度の景気見通しについて、2019年10月に予定されている消費増税のネガティブな影響を含めて、議論された可能性がある。実際に、各審議委員の2019年度のGDP、インフレの想定は、極めて底堅いが、これについて「下振れリスク」が大きいとの見方が大勢で、展望レポートでも2019年度について経済・インフレの下振れリスクがあると総括されている。下振れリスクを懸念する審議委員の認識が変わらないのであれば、10年長期金利の引き上げは行われないとみられる。

その観点で筆者が注目したのは、2019年度に予定されている消費増税5.6兆円が、恒久的な教育無償化などで相殺され、2兆円の家計負担にとどまるとの展望レポートでの試算である。これを前提とすれば、前回2014年度消費増税時の約8兆円の家計負担と比べて4分の1程度で、その負担が家計所得に占める割合が0.7%程度となる。であれば、2014年度のように個人消費がマイナス1%まで、大きく減るほどの強烈なインパクトは避けられるだろう。

ただ、実際に消費増税による所得目減りが相殺されて、約2兆円の負担にとどまるかは、教育無償化の実現によって家計の恒久的な所得がどの程度増えるかという政策対応に依存する。3?5歳児の幼稚園などの無償化(0.7兆円規模の所得増)など、1兆円程度の家計所得補填が実現する可能性は高そうだ。

一方、それ以外の家計所得減を補う教育無償化などのプランが実現するかは、依然不確実な部分がある。いずれにしても、現状で筆者は日本銀行がすでに示している試算よりも、消費増税による家計の負担が大きくなるリスクがある、と考える。

村上 尚己 エコノミスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

この著者の記事一覧はこちら

1 2 3


記事一覧 に戻る 最新ニュース読み比べ に戻る