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こうした経緯の中で、プーチン大統領主導のクリミア侵攻が起こっている。トランプ大統領はオバマ氏を、「ロシアに癒着し、ロシアに弱い大統領」と厳しく批判しているが、そのオバマ氏からさえ、「金儲けしすぎ」と批判されているのは、ほかでもないヒラリー元国務長官だ。オバマ、ヒラリー両氏は、ともにプーチン氏になめられていただけでなく、プーチン氏を激高させていたのだ。

そのことが、今回のヘルシンキでの米ロ首脳会談直後の共同記者会見で明らかになった。プーチン大統領は、突然、ヒラリー氏が4億ドルの政治献金を、ロシアで荒稼ぎした大富豪から得ていると暴露したのだ。実は、その金額は40万ドルだったと訂正され、メディアによっては、政治献金そのものを全面否定するところもある。

だが、問題はその事実関係にあるのではない。数字が食い違うこと自体、プーチン氏の発言は、用意された原稿ではなかったことだ。いわば、ヒラリー氏に対するプーチン氏の遺恨の強さを物語っているといえる。

この件に関して、ヒラリー氏側は明確なカウンターパンチを繰り出していない。ひたすら親ヒラリー、親オバマの多数ジャーナリストによる擁護論に頼っている印象が強い。

トランプ大統領のネゴシエーション力の賜物

この2人に比べると、トランプ氏はプラグマティズム(実践主義)に徹している。たとえば、トランプ大統領が最も信頼している閣僚の1人であるマティス国防長官が、このほど2つの点を明確にした。

1つは、マティス国防長官が、米ロ首脳会談直後に、トランプ大統領によるプーチン大統領へのネゴシエーションを通じて、アメリカの国家安全保障上の政策に何らの変化も生じていないことを明言したことだ。

もう1つは、いま世界注目の的の「宇宙軍」に、1年前には慎重論だったマティス国防長官が、ヘルシンキの米ロ首脳会談の翌月、8月9日に、「宇宙軍」創設に実務的なゴーサインを出したことだ。この「宇宙軍」創設は大きな意味を持つ。

すなわち、これまで「テロリストを刺激することが多い形」での核対立の時代から、「テロリストの手の届かない」宇宙レベルでの安全保障構想への移行を、トランプ大統領の新ビジョンは内包しているといえる。この構想によって、ポスト・核兵器競争時代としての、広大で新たな危機管理時代が始動しつつある。

この宇宙時代の新しい未来を切り開く「宇宙軍」創設にマティス国防長官がゴーサインを出した意味は大きい。その前提としては、トランプ大統領のネゴシエーション力がプーチン氏を動かし、オバマ前政権が高めた米ロ核衝突の可能性を低めたからだといえる。そのことをマティス国防長官がクールに判定したからこそのゴーサインだったのだろう。

ともかく、トランプ大統領は「2つの核戦争」から世界を救ったことになる。その成果はウォール街が最高に評価するトランプ氏のネゴシエーション力の賜物と言っていい。

湯浅 卓 米国弁護士

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ゆあさ たかし / Takashi Yuasa

米国弁護士(ニューヨーク州、ワシントンD.C.)の資格を持つ。東大法学部卒業後、UCLA、コロンビア、ハーバードの各ロースクールに学ぶ。ロックフェラーセンターの三菱地所への売却案件(1989年)では、ロックフェラーグループのアドバイザーの中軸として活躍した。映画評論家、学術分野での寄付普及などでも活躍。桃山学院大学客員教授。

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